M&Aで注意したいこと|失敗事例から解説
M&Aは、買い手と売り手の両方が存在する取引です。
相互の思惑が完全に一致することは少ないことから、お互いに妥協しながら、スピーディーに取引をまとめあげる必要があります。
交渉が長引けば、破談になることも少なくありません。
この記事では、M&Aで注意したいことを中心に、具体的な失敗事例を取り上げ、最後にM&A成功のポイントについて簡単にまとめて整理していきます。
M&Aでの注意点
M&Aを実施する際に注意することは、どんなM&Aでも成功が約束されているわけではないことです。
買い手と売り手の双方が満足できないM&Aは期待外れであり、内部からも外部からも、失敗だった、と評価される恐れもあります。
この章では、買い手側と売り手側の二者の視点にわけて、M&Aを実施する際の注意点について解説していきます。
- 買い手側の注意点
- 売り手側の注意点
買い手側の注意点
M&Aを実施し、買い手側が想定した効果が得られたのなら、そのM&Aは成功です。
これはM&Aによって企業グループの価値が向上したということを意味します。
買収後の企業価値が買収価格を上回っているならM&Aは成功だったと考えるようにしてください。
- M&Aの目的を明確にすること
- 専門分野に限定すること
- アドバイザーの意見は参考程度
- 従業員の離職を防止すること
- 契約書は何度も確認すること
- 情報漏れに注意
- スケジュールを重視すること
M&Aの目的を明確にすること
M&Aを実施することが目的ではありません。
あくまでも手段であり、何のためにM&Aを実施するのか、といった目的をはっきりさせておきましょう。
経営戦略の一つとしてのM&Aとして捉えるようにしてください。
専門分野に限定すること
専門外の事業や会社を買収するのはやめておきましょう。
業界経験やノウハウがないと、事業経営で失敗する確率が高いからです。
アドバイザーの意見は参考程度
M&Aは専門知識が必要です。
M&Aアドバイザーなどのアドバイスは参考程度に留めてください。
利益相反リスクもありますので、中立的な立場で助言が受けられるM&Aアドバイザーを慎重に選びましょう。
従業員の離職を防止すること
M&Aでは、譲渡企業の優秀な従業員が、一定数離職するのは避けられない事態です。
買収後の統合や経営がうまくいくかどうかは、残ってくれた優秀な人材にかかっています。
従業員の処遇についても不満が出ないように対処しなければなりません。
契約書は何度も確認すること
契約書は、法的に問題がない場合でも、不条理な契約内容が記載されている恐れもあります。話し合いの結果がきちんと契約内容に反映されているのかどうかを確認してください。
表明保証(レプワラ)の記載もきちんと確認してください。
デューデリジェンスと適正な企業価値算定
デューデリジェンスは、譲渡企業に対して行う事前調査です。
リスクの発見や企業価値の向上につながるのか、M&Aでは最も重視される手続きです。
徹底して行うことで、M&Aの成功率が上がります。
情報漏れに注意
M&A成立前に外部に情報を漏らさないように、情報管理には十分にご注意ください。
ネガティブな噂によってイメージダウンとなり、従業員の離職や企業価値の毀損につながるからです。
スケジュールを重視すること
買い手と売り手で協力してスムーズにM&Aの手続きを終わらせるには、双方がスケジュールを守ることが重要です。無理やり統合するのではなく、M&A後の統合計画をしっかり立てておきましょう。
売り手側の注意点
希望する価格で会社が売れれば、売り手側のM&Aは成功です。
M&Aの交渉や手続きにおいては、当初の予定よりもM&A価格が下がらないように注意しなければなりません。
- 信頼できるM&Aアドバイザーを選ぶこと
- 複数の買い手候補を探してよく比較検討すること
- 希望のM&A価格の算定
- 適切な情報の開示
- M&A情報を外部に漏らさないこと
- 契約書の確認を怠らないこと
- スケジュールを重視すること
信頼できるM&Aアドバイザーを選ぶこと
M&A成功には、丁寧なサポートはもちろんのこと、様々な相談に乗ってくれるM&Aアドバイザーの存在が重要です。
利益相反にならないように、信頼できるM&Aアドバイザーを選んでください。
複数の買い手候補を探してよく比較検討すること
売り手側は、複数の買い手候補から価格面だけではなく、M&A成立後の事業運営を考えたベストな買い手を選ぶ必要があります。
そのため、1社だけではなく、複数の会社と交渉を行う必要があります。
希望のM&A価格の算定
M&Aでは、売り手が希望する価格を簡単に下げないようにしてください。
できる限り高値で買い取ってくれる買い手を探すことが重要です。
場合によっては、複数の買い手に入札形式で売却するなど、希望するM&A価格を超えるように工夫しなければなりません。
適切な情報の開示
買い手側に提供する情報は、常に正しいものでなければなりません。
虚偽報告や情報隠蔽は、表明保証(レプワラ)違反で損害賠償を請求される恐れがあるからです。
また、買い手側も正しい判断ができないからです。
M&A情報を外部に漏らさないこと
買い手同様、売り手もM&Aに関する情報漏れには注意してください。
ネガティブな噂が、取引先や従業員の突然の離脱につながるからです。
契約書の確認を怠らないこと
できる限り、自社が不利な条件となるような契約の締結は避けてください。
また、契約書の不備や不当な記載内容があれば、再度交渉からやり直したほうがいいでしょう。
スケジュールを重視すること
M&Aでは準備期間を含めて、余裕のあるスケジュールを立てることが重要です。
さらに、事前にM&Aの目的、基本知識、関係者同士の同意なども得ておく必要があるでしょう。
M&Aでの失敗しがちな事例
この章では、M&Aでよくある失敗事例について、買い手側と売り手側の2つの視点から別々に解説していきます。
買い手側の失敗事例
- 価値のない企業を高値で買わされるケース
- 企業選定の失敗
- 専門分野外のM&Aでの失敗
- 不十分なデューデリジェンス
- 契約書の検討が不十分
価値のない企業を高値で買わされるケース
企業価値の低い会社を高値で買わされる、あるいは買ってしまうケースです。
企業価値の毀損、シナジー効果が出なかったなど、実際の評価額よりも高値で購入してしまう失敗です。
企業選定の失敗
企業選定を間違うと、継続的な利益も出ないうえに、シナジー効果も生みません。最終的に買収金額が流出しただけに終わります。
専門分野外のM&Aでの失敗
専門分野外のM&Aを行うと、経営に失敗する確率が高くなります。
新規事業でも、買収する企業のある程度の業界での経験やノウハウは必要です。
不十分なデューデリジェンス
デューデリジェンスが不十分だと、潜在的なリスクを見逃し、企業価値の算定に失敗します。
そのため、M&A後に思ったシナジー効果が出ずに、企業価値が下がってしまうことがあります。
契約書の検討が不十分
協議や交渉の内容と最終の契約書の内容に相違がある場合です。
M&Aが成立せず失敗に終わることがあります。
また、表明保証(レプワラ)条項の不備で、損害賠償請求ができずに、損害を回復できないトラブルに発展する恐れがあります。
売り手側の失敗事例
- M&Aの情報が外部に漏れる
- 契約後の代金の支払いができない
- 損害賠償請求などのトラブル発生
- 情報開示が不十分でM&A価格が安くなった
- 突然の条件変更で破談
- スケジュールや準備が不十分
M&Aの情報が外部に漏れる
M&Aの情報が外部に漏れると、経営の悪化などの悪い噂が流れてしまいます。
企業価値の下落につながり、M&Aが破談することがあります。
契約後の代金の支払いができない
契約締結後、期日に代金支払いがないなどのトラブルが発生することがあります。
最終契約書を交わしたにも関わらず、代金の支払いを拒絶されることもあります。
期日までに支払いがなかった場合や契約解除についての取り決めや対応も決めておきましょう。
損害賠償請求などのトラブル発生
後日、表明保証違反で相手から損害賠償請求されることがあります。
正しい情報提供を行うことが重要です。
表明保証違反にならないように、記録を残して証拠作りを徹底しておきましょう。
情報開示が不十分でM&A価格が安くなった
情報開示が不十分だと、買い手側が会社を購入せずにキャンセルする恐れがあります。
買い手側が期待する適切な情報提供を行うことが重要です。
突然の条件変更で破談
突然の条件変更があった場合でも、買い手側の要求を全て受け入れる必要はありません。
不当な評価で会社を売却せざるを得ない場合は、破談にする勇気も必要です。
スケジュールや準備が不十分
売り手側の準備が不十分だと、買い手側がどんなに頑張っても、M&Aが失敗に終わることがあります。
例えば、M&Aに株主が同意しないなど、関係者の同意が得られない場合もM&A失敗の一例です。
M&Aを成功させるポイント
M&Aの失敗パターンから学ぶべきことはたくさんあります。
さらにM&Aを円滑に行い、成功に導くには成功のポイントについても知る必要があるでしょう。
この章では、M&Aを成功させるポイントについてまとめて整理しました。
- 自社の状況をよく理解すること
- 適切な譲渡価格を算出すること
- 慎重に条件交渉を行うこと
- 重要な買収監査(デューデリジェンス)
- 経営者同士の良好な人間関係の構築
- 従業員や取引先との良好な人間関係の構築
- 取引金融機関の協力を得る
自社の状況をよく理解すること
客観的に今の自社を見て、自社の状況をよく理解することが重要です。
専門分野を中心とした事業でのM&Aを実施し、得意な事業を伸ばしていくような計画や戦略のほうが成功しやすくなるからです。
適切な譲渡価格を算出すること
買収金額は、売り手側と買い手側の双方が納得できる適切な譲渡価格でなければなりません。
M&A後にどのようなシナジー効果が出るのかを想定して、適切な譲渡価格を決定する必要があります。
慎重に条件交渉を行うこと
条件交渉は、主に経営者同士で行いますが、常に誠実に対応してください。
M&A後に取引先や従業員の協力が得られないのなら、信頼されていない証拠です。想定していたシナジー効果も出ないでしょう。
このような理由から、条件交渉は誠実に慎重に行う必要があります。
重要な買収監査(デューデリジェンス)
デューデリジェンスを徹底し、買収企業のリスクや課題をしっかりと洗い出ししておきましょう。
買い手側は、デューデリジェンスにかかる費用や労力を惜しまないようにしてください。
リスクがあったとしても、対策が可能なら、M&Aを実施する価値は十分にあります。
経営者同士の良好な人間関係の構築
大企業や買い手側が常に勝っているわけではありません。
新旧の経営者同士の良好な人間関係を構築しながら、M&A成立後もお互いに協力してもらうことが重要です。
M&A実施後の企業価値を下げないためにも、取引先や従業員との関係なども同様に良好な関係を維持する努力が必要です。
従業員や取引先との良好な人間関係の構築
信頼できる従業員や主要取引先とは積極的にコミュニケーションを取っておきましょう。
トラブル発生時は迅速に、なおかつ柔軟に対応してもらう必要があるからです。
M&Aが成立すれば、社内外への情報公開が始まりますので、主要取引先との早めの挨拶回りなども重要です。
取引金融機関の協力を得る
買収にあたって、自己資金では足りない場合は、取引金融機関からの融資が必要になることがあります。
融資の審査が通らなければ、売り手側にも多大な迷惑をかけることになるからです。
そのため、普段から取引金融機関との関係を良好に維持しておきましょう。
また、必要に応じて公的金融機関の融資を利用するなど、柔軟に切り替えながら対応していきましょう。
まとめ
この記事では、M&Aに関する各種注意点を網羅し、よくある失敗事例をご紹介しました。さらに、M&Aを成功に導くための各種ポイントについても詳しく解説しました。
M&Aは、買い手と売り手の両方が存在する複雑で交渉の難しい取引です。
相互の思惑が完全に一致することは少ないといってもいいでしょう。
M&Aはタイミングなども重要で、交渉が長引けば、破談になることも少なくないからです。
お互いに妥協するところは妥協しながら、スピーディーに取引をまとめあげる必要があります。