赤字会社を買収して節税を狙う!メリット、リスク、効果的な手法とは?
「事業拡大を目指しているけれど、法人税の負担が重い…」そんな悩みを抱える経営者は少なくないでしょう。その解決策の一つが、赤字会社の買収による節税戦略です。
赤字会社の買収では、繰越欠損金の活用による節税効果だけでなく、事業拡大や競争力強化といったメリットも期待できます。
本記事では、買収のメリット、注意すべきリスク、そして効果的な買収手法について、具体例を交えながら詳しく解説していきます。
そもそも赤字会社とは
赤字会社は、売上から費用を差し引いた事業収支が「マイナス」になっている企業です。
たとえば、年間売上が1億円なのに対し、人件費や運営費用が1億2000万円かかる場合、2000万円の赤字となります。
このような赤字状態が続くと、さまざまな問題が発生するでしょう。
まず資金繰りが悪化し、固定費の支払いや借入金の返済が困難になっていきます。また、取引先からの信用も低下するため、新規の融資を受けにくくなる可能性があります。
加えて、従業員の給与支払いにも支障をきたすことがあり、モチベーションの低下や人材流出といった問題も起こりやすいのです。
このように赤字会社は、財務面だけでなく、経営全般にわたって深刻な課題を抱えているといえます。
赤字会社の買収で期待できる節税効果
赤字会社の買収による主な節税効果は、「繰越欠損金」の活用にあります。繰越欠損金とは、企業が過去に計上した損失を将来の利益と相殺できる制度のことです。
具体的には、所得金額の50%を上限に段階的に控除できます。これにより、実質的な税負担を大幅に軽減することが可能となるでしょう。
ただし、この制度を活用するためには、いくつかの重要な条件があります。
まず繰越欠損金の期限は発生から10年間に限られています。また、単なる節税目的の買収は税務上の問題となる可能性があるため、実質的な事業目的が必要です。
そのため、専門家に相談しながら、法令要件を満たす形で買収を進めることが重要となります。
節税効果以外の赤字会社を買収するメリット
赤字会社の買収には、節税以外にも事業拡大や競争力強化につながる重要なメリットがあります。
- シナジー効果を得られる可能性がある
- 買収コストを抑えられる
- 人材や資産を獲得できる
- 競合排除と市場シェア拡大が期待できる
- 新規事業への迅速な参入が可能になる
シナジー効果を得られる可能性がある
シナジー効果とは、2つの企業が持つ強みを掛け合わせることで生まれる相乗効果のことです。
たとえば、自社が持つ販売網と買収企業の技術力を組み合わせることで、新たな商品開発や市場開拓が可能になります。
また、それぞれの企業が持つ経営ノウハウを共有することで、業務効率の改善やコスト削減といった効果も期待できるでしょう。
このように、適切な企業を買収することで、単独では得られない価値を創出できます。
買収コストを抑えられる
赤字会社は通常、企業価値が低く評価される傾向にあるため、比較的安価での買収が可能です。
具体的には、業績不振により株価が低迷している上場企業や、事業承継に悩む中小企業などが対象となります。
これにより、本来の価値よりも低いコストで、有形・無形の資産を取得できる可能性があるのです。ただし、買収後の経営改善コストも考慮する必要があります。
人材や資産を獲得できる
赤字会社であっても、優秀な人材や価値ある資産を保有していることは少なくありません。
たとえば、特殊な技術を持つエンジニアや、長年の取引で築いた顧客との信頼関係といった無形の資産があります。
また、工場や設備、特許、ブランドなどの有形資産も、適切に活用すれば大きな価値を生み出す可能性があるでしょう。
これらの経営資源を効果的に活用することで、自社の競争力強化につながります。
競合排除と市場シェア拡大が期待できる
競合企業の買収により、市場における競争環境を改善し、シェア拡大を図れます。
とくに、同じ市場で競合している企業を買収することで、価格競争の緩和や経営の効率化が期待できます。
さらに、買収企業の顧客基盤を取り込むことで、市場シェアを一気に拡大することも可能です。これにより、スケールメリットを活かした収益性の向上も見込めるでしょう。
新規事業への迅速な参入が可能になる
買収により、新規事業に必要な経営資源をまとめて取得できるため、事業立ち上げが迅速化します。
たとえば、新市場への参入に必要な許認可や設備、顧客基盤などを一括で取得できます。
これにより、ゼロからの事業立ち上げと比べて、大幅な時間短縮とリスク低減が可能となります。
また、既存の事業基盤を活用することで、初期投資も抑えられる可能性があるでしょう。
赤字会社の買収に伴うデメリットとリスク
赤字会社の買収には、適切な対策が必要となるさまざまなデメリットやリスクが存在します。
- 財務状況の不透明性により予期せぬリスクを抱える可能性がある
- 経営改善に多大なコストと時間がかかる可能性がある
- 企業文化の統合が難しい
- 法的・契約上のリスクが伴う
- 繰越欠損金の活用に関する制約がある
- 市場環境の変化により成果が得られない可能性がある
財務状況の不透明性により予期せぬリスクを抱える可能性がある
赤字会社の財務状況は、表面的な数字だけでは把握しきれない不透明さを抱えていることがあります。
たとえば、未払いの税金や社会保険料といった隠れた負債が発覚したり、過去の取引に関する賠償リスクが表面化したりする可能性があるのです。
そのため、買収前の詳細なデューデリジェンスと、予期せぬ負債に対する資金的な備えが重要となります。
経営改善に多大なコストと時間がかかる可能性がある
赤字企業の経営を立て直すには、予想以上の時間とコストがかかることが少なくありません。
具体的には、業務プロセスの改善やシステムの刷新、従業員の再教育など、さまざまな投資が必要となります。
また、これらの施策が成果を出すまでには相当な時間を要するため、その間の資金繰りや収益確保も課題となるでしょう。
企業文化の統合が難しい
買収後の最も大きな課題の一つが、異なる企業文化の融合です。長年培われてきた価値観や仕事の進め方の違いは、容易には解消できないものです。
とくに、従業員の不安や抵抗感が強まると、モチベーションの低下や優秀な人材の流出につながる可能性があります。そのため、慎重なコミュニケーションと段階的な統合プロセスが必要となるでしょう。
法的・契約上のリスクが伴う
買収企業には予期せぬ法的責任が発生する可能性があります。たとえば、過去の取引に関する紛争や、労働問題に関する訴訟リスクなどが潜んでいることがあります。
また、既存の契約関係の承継や許認可の移転にも注意が必要です。
そのため、法務専門家による徹底的な調査と、適切な契約条項の設定が重要となるでしょう。
繰越欠損金の活用に関する制約がある
繰越欠損金の活用には、さまざまな法的要件や制約が存在します。具体的には、事業の継続性や従業員の雇用維持など、特定の条件を満たす必要があります。
また、制度の適用期限や利用限度額にも制限があるため、想定していた節税効果が得られない可能性もあるでしょう。そのため、税務の専門家に相談しながら慎重に計画を進める必要があります。
市場環境の変化により成果が得られない可能性がある
市場環境の変化により、買収時に想定していた成果が得られないリスクがあります。たとえば、新規参入による競争激化や、消費者ニーズの変化により、事業計画の見直しを迫られる可能性があります。
また、景気変動や規制強化といった外部要因も、業績回復の妨げとなるかもしれません。そのため、市場動向を見据えた柔軟な戦略修正が求められるでしょう。
赤字会社の買収手法
赤字会社の買収には、目的や状況に応じて選択できるさまざまな手法があります。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 合併
- 第三者割当増資
- 債務の引受
株式譲渡
株式譲渡は、対象企業の株式を取得して経営権を獲得する最も一般的な買収手法です。この方法では、既存の契約関係や許認可をそのまま引き継げるため、事業の継続性を保ちやすい利点があります。
ただし、企業の負債やリスクもすべて引き継ぐことになるため、事前の財務調査が極めて重要となります。対象企業の隠れた債務や偶発リスクを見逃さないよう、慎重な精査が必要でしょう。
事業譲渡
事業譲渡は、企業全体ではなく、特定の事業や資産だけを選んで買収する手法です。必要な資産や収益性の高い事業部門のみを選択できるため、不要なリスクを回避しやすいのが特徴です。
ただし、契約の再締結や許認可の再取得が必要となり、手続きが煩雑になる可能性があります。また、従業員の移籍にも慎重な対応が求められるでしょう。
合併
合併は、買収企業と対象企業を一つの法人として統合する手法です。経営資源を完全に統合できるため、大きなシナジー効果が期待できます。また、重複する業務の効率化も図りやすい利点があります。
しかし、企業文化の違いによる従業員間の軋轢や、システム統合などに伴う多額のコストが発生する可能性もあるため、慎重な計画が必要です。
第三者割当増資
第三者割当増資は、対象企業が新株を発行し、買収企業がそれを引き受けることで資本参加する手法です。対象企業に資金を注入することで財務基盤を強化でき、段階的な経営権取得も可能となります。
ただし、既存株主の持分が希薄化するため、反対する株主への対応が必要となる場合があります。また、完全な経営権掌握までに時間がかかることもあるでしょう。
債務の引受
債務引受は、対象企業の債務を買収企業が引き受けることで経営権を獲得する手法です。対象企業の財務状況を直接改善できる一方で、買収企業自身の財務に大きな影響を与える可能性があります。
また、複数の債権者との交渉が必要となり、合意形成に時間がかかることも想定されます。そのため、自社の財務体力と慎重な交渉戦略が重要となるでしょう。
まとめ
赤字会社の買収は、適切に実行すれば大きな節税効果とビジネスチャンスをもたらす可能性があります。
ただし、財務状況の不透明性や経営統合の難しさなど、さまざまなリスクも存在することを忘れてはいけません。
そのため、事前の徹底した調査と、専門家への相談を通じて慎重に進めることが重要です。
買収の目的や状況に応じて最適な手法を選択し、計画的に実行することで、企業価値の向上につなげていきましょう。