M&Aにおけるストックオプションのメリット、デメリットについて解説
役員や従業員へのインセンティブ制度としてベンチャー企業などで活用されている「ストックオプション(新株予約権)」もM&Aでは利用価値が高く、メリットの多いスキームとして知られています。
M&Aにおけるストックオプションを利用する場合は、その取り扱いや種類、メリットとデメリット、税務などについてよく理解してから利用しなければなりません。
この記事では、M&Aにおいてストックオプションが活用されている理由、メリットとデメリット、税務に関する話題について解説していきます。
この記事でわかること
- M&Aにおけるストックオプションとは?
- ストックオプションのメリットとデメリット
- ストックオプションの税務について
M&Aにおけるストックオプションとは?
上場を目指す企業でも従業員の将来のインセンティブとして「ストックオプション(新株予約権)」を付与し、モチベーションを向上させて、業績をアップさせる狙いがあります。
また、M&Aにおいてもストックオプションが活用されています。
この章では、M&Aで活用されている理由、譲渡側と譲受側の双方の取り扱いについて解説します。
しっかりと理解してから、ストックオプションを活用してください。
- ストックオプション(新株予約権)の特徴
- ストックオプションがM&Aで利用されている理由
- ストックオプションの取り扱い時の注意点
- 完全子会社化するケース(株式譲渡、株式交換、株式移転など)
- 譲渡企業が消滅する合併
ストックオプション(新株予約権)の特徴
ストックオプションは、会社の役員だけではなく、従業員に対しても効果のあるものです。
ストックオプションを付与されると、将来の一定期間において、あらかじめ決められた「権利行使価格」にて自社の株式を購入できる権利です。
ストックオプションがM&Aで利用されている理由
ストックオプションを付与されるのは、その会社の役員や従業員です。
仕事を頑張って、会社の業績が上がり、その結果株価が上昇すれば、定められた価格(低い価格)で自社株式を購入し、市場で売却して利益を得ることができるからです。
ストックオプションは、インセンティブとして、上場企業やベンチャー企業などで導入されています。
M&Aでは、ストックオプションを付与し、業績が上がった後に段階的に権利を行使してもらうことで、キャピタルゲイン(株式の売却益)を得ることができます。
このような理由から、ストックオプション制度の導入は、社員の意識向上や優秀な人材確保のほか、M&A後の従業員の早期辞職を防ぐ狙いがあります。
ストックオプションの取り扱い時の注意点
M&Aにおいてストックオプションを実施する場合は、その取り扱いに注意しなければならないことがあります。
問題となるのは次の2つになります。
- 完全子会社化するケース(株式譲渡、株式交換、株式移転など)
- 譲渡企業が消滅する合併
次に譲渡側と譲受側の取り扱いの注意点について解説します。
完全子会社化するケース(株式譲渡、株式交換、株式移転など)
譲渡企業の取るべき選択肢は次の2つになっています。
- 譲受企業へのストックオプション売却
- ストックオプション消滅
完全子会社化する場合は、株式は譲受企業に全て譲渡されます。
そのため、ストックオプションは消滅してしまいます。
問題となるのは、「新株予約権買取請求権」が発生する場合です。
親会社のストックオプションを交付するケースであっても、子会社のストックオプションとの権利内容の相違や交付されないこともあるからです。
つまり、上場できない子会社のストックオプションは、権利行使不可となり、ストックオプションは消滅してしまうということです。
譲渡企業譲受企業のそれぞれの取り扱い
譲受企業は2つの方法を選ぶことができます。
- 譲渡企業のストックオプション買取
- 譲渡企業のストックオプション消滅
譲受企業は、100%子会社化する前に、ストックオプションや新株予約権付社債などの潜在株式を事前に処理しておく必要があります。
譲渡企業は2つの方法を選ぶことができます。
- 譲渡企業のストックオプション消滅
- 譲渡企業のストックオプションを譲渡企業の従業員に付与
譲渡企業のストックオプションの規定にもよりますが、補償の規定が存在すれば、譲渡企業の従業員にはストックオプションを付与しなければならないでしょう。
譲渡企業が消滅する合併
新設合併や吸収合併では、譲渡企業が消滅すれば、当然ながらストックオプションも消滅します。
(会社法で規定)
しかし、譲受企業のストックオプション行使を受けるかどうか、受けるならその条件を自社ストックオプションの内容でも規定できます。
そのため、異なる条件でのストックオプション付与やストックオプションが付与されない場合に自社に対してのストックオプション買取請求権を行使することができます。
譲渡企業譲受企業のそれぞれの取り扱い
譲渡企業が消滅するため、譲渡企業のストックオプションは消滅します。
譲受企業は2つの方法から選択できます。
- 譲渡企業のストックオプション保有者に金銭的補償を行う
- 譲受企業のストックオプション付与
譲渡企業のストックオプションの規定にもよりますが、補償の規定があれば、譲渡企業の従業員に対してもストックオプションを付与する必要があります。
譲受企業は、M&A契約時に忘れずに金銭補償の内容やストックオプションの内容・発行数などを規定し、明記しなければなりません。
ストックオプションのメリットとデメリット
この章ではストックオプションのメリットとデメリットについて整理します。
メリット
- 優秀な人材の確保
- 従業員や取締役などの個人のモチベーション向上
優秀な人材の確保
新興企業であっても、将来の成長を見込んで、成功報酬としてのストックオプション付与によって優秀な人材を確保することができます。
また、ストックオプションでは行使行使後に一定期間退職ができない、などの条件も付けることができるため、早期退職も予防できます。
ストックオプションは、新規採用時のほか、外部アドバイザーや投資家などを仲間に入れたいときにも有効に利用できる手段です。
従業員や取締役などの個人のモチベーション向上
ストックオプションは、組織や企業であっても、特定の個人に対して付与することができるため、役員や技術者などの優秀な人材に対しても活用でき、業績向上につながるでしょう。
株価を上げるためには、業績を上げる必要があるからです。
各個人によってストックオプションの契約内容も異なりますが、多くは株価が上がるとストックオプションで手にする報酬額も増えることから、働く人のモチベーションがアップし、会社の成長へとつながります。
デメリット
- 利益を獲得した人材の早期退職
- 既存株主の株式価値の下落
利益を獲得した人材の早期退職
ストックオプションを行使すると、目標としていた利益や報酬を獲得できます。
その企業で働く必要がなくなり、優秀な人材が早期に退職してしまう恐れがあります。
そのため、事前に「ペスティング条項」を定めています。
「ペスティング条項」では、ストックオプションの権利行使の回数を複数にわける、一定期間後にしか権利が行使できない、などの各種条件を設定し、権利行使した従業員の早期退職を防いでいます。
既存株主の株式価値の下落
ストックオプションに制限を設けずに大量に発行すると、株式価値が低下します。
特に既存株主が大きく影響を受け、上場後に株価が大幅に下落してしまう恐れがあります。
ストックオプション発行株式数は、全株式の一定割合にするなど、株価下落リスクを避ける対策が必要です。
ストックオプションの税務について
ストックオプションを実行するにあたり、株式の取引が必要です。
利益や報酬を獲得するには、株式の購入や売買といった取引が必要となり、その際税金がかかることを知っておいてください。
この章では下記の税務にかかわる項目について解説します。
- 株式の購入と売買が必要なストックオプション
- 税制優遇措置の存在
- 譲受企業によるストックオプションの買い取り
- ストックオプション行使時に株式を譲受企業に譲渡するケース
株式の購入と売買が必要なストックオプション
ストックオプションの権利を行使する場合は、株式の購入と売買の2段階の取引が必要です。
そして、購入時は給与所得、売却時は譲渡所得となるため原則課税対象です。
それぞれ所定の税金が発生する点に注意しなければなりません。
また、次にご説明する「税制優遇措置」も設けられていますので、内容をよく確認し、無駄な税金を支払うことのないようにご注意ください。
税制優遇措置の存在
ストックオプションの税務では、「税制適格」と「税制非適格」にわけることができます。
さらに、課税対象が給与所得と譲渡所得にわかれることもありますので、課税タイミング、計算方法、申告方法なども異なることに注意しなければなりません。
税制適格かどうか、またその内容については、毎年更新されていますので、必ず今適用されている新しい情報を参考にするようにしましょう。
譲受企業によるストックオプション買取 | 給与所得のみ |
権利行使時に株式を譲受企業に譲渡(税制適格) | 譲渡所得のみ |
権利行使時に株式を譲受企業に譲渡(税制非適格) | 給与所得と譲渡所得の両方 |
譲受企業によるストックオプションの買い取り
譲渡を行う時点で経済的利益が生まれます。給与所得は、ストックオプション譲渡での譲渡所得等の取得費用としてみなされます。
ストックオプション行使時に株式を譲受企業に譲渡するケース
譲渡企業の従業員がストックオプションの権利を行使して、譲受企業に株式を譲渡する場合は、次の2つのパターンに注意してください。
- 税制適格
- 税制非適格
税制適格と税制非適格
譲渡企業の従業員がストックオプションを行使すると、給与所得が発生します。
そして、その株式を譲受企業に譲渡すると、譲渡所得が発生します。
そのため、給与所得と譲渡所得の両方が発生します。
このケースは、税制非適格のケースです。
しかし、税制適格ストックオプションの場合は、ストックオプション行使時の給与所得への課税が行われません。
そのため、株式譲渡時の譲渡所得のみの課税となります。
最後に税制優遇措置を受けるための租税特別措置法第29条の2の規定を確認しておきましょう。
税制適格ストックオプション
発行価額 | 無償 |
付与対象者 | 会社及びその子会社の取締役・執行役・使用人 |
権利行使期間 | ストップオプション付与後、2〜10年後の8年間で購入 |
権利行使価額 | 自社株購入時の価額は新株予約権にかかる契約時の時価以上で設定 |
譲渡禁止規定 | 第三者への譲渡禁止 |
権利行使限度額 | 年間の権利行使価格が合計で1,200万円を超えないこと |
保管委託 | 権利行使で取得した株式の保管先を決める |
まとめ
この記事では、M&Aにおけるストックオプションのメリットやデメリットを中心に解説してきました。
役員や従業員へのインセンティブ制度としてベンチャー企業などで活用されている「ストックオプション(新株予約権)」もM&Aではモチベーションアップとしても利用価値が高いため、メリットの多いスキームです。
しかし、M&Aにおけるストックオプションを利用する場合は、その取り扱いや種類、メリットとデメリット、税務などについてよく理解してから利用すべきでしょう。
さらにこの記事では、M&Aにおいてストックオプションが活用されている理由や税制優遇措置の活用などについてもまとめてご説明しましたので参考にしてください。