事業売却とは?メリットやデメリットと事業価値の算出方法について解説
事業売却を検討している経営者や企業担当者にとって、事業売却の基本的な知識とそのプロセスを理解することは重要です。
「事業売却をしたいけど、何から始めたらよいかわからない」、「事業売却にはどんなメリット・デメリットがあるの」という悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。
この記事では、事業売却の定義から始めて、事業価値の算出方法、売却のメリット・デメリット、税金の扱い、そして具体的な手続きの流れまで詳しく解説します。
事業売却をスムーズに進め、成功に導くための基礎知識を身につけていきましょう。
事業売却とは
事業売却とは、企業が持つ事業の一部またはすべてを第三者に売却することを指します。
売却の対象となるのは、企業が手掛けている特定の事業であり、会社そのものは存続します。
これにより、経営権を保持したまま事業の一部を売却することが可能です。
事業売却は、事業ポートフォリオの再編や経営資源の有効活用、資金調達などを目的として行われます。
事業売却は、次のようなプロセスを含みます。
- 売却事業の決定:どの事業を売却するかを決定します
- 事業価値の算定:事業の価値を正確に評価します
- 買い手探し:適切な買い手を見つけます
- 基本合意:売却条件の基本合意を行います
- デューデリジェンス:買い手による事業の詳細な調査が行われます
- 契約締結:最終的な事業譲渡契約を締結します
事業価値の算出方法
事業売却の際、事業の価値を適切に算定することが重要です。代表的な価値算定方法は以下の通りです。
DCF法(割引現在価値方式)
将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くことで企業価値を算出します。この方法は、事業の将来性を反映した評価が可能です。
時価純資産法
資産の時価から負債の時価を差し引いて企業価値を算定します。シンプルで客観性が高いですが、将来の収益性は反映されません。
簿価純資産法
貸借対照表上の純資産を基に企業価値を算出します。帳簿価額を基礎としているため、客観性に優れています。
類似会社比較法
類似する上場企業の財務指標を基に企業価値を算出します。市場の評価を反映した評価が可能です。
類似取引法
過去のM&A取引を基に企業価値を算出します。実績に基づいた評価が可能ですが、過去の取引事例のデータが必要です。
価値が高い傾向にある事業
事業売却において、価値が高いと評価される事業には以下の特徴があります。
利益率が高い事業
高い利益率を維持している事業は、買収側にとって魅力的です。コスト削減や効率化が進んでいる事業は高く評価されます。
財務状況が整理されている事業
財務状況が明確で、デューデリジェンスで問題が少ない事業は、高い価値がつきやすいです。簿外債務や使途不明金がないことが重要です。
同業他社と差別化されている事業
独自性が高く、他社が模倣しにくい事業は価値が高くなります。特許や独自技術、ブランド力があると有利です。
事業売却のメリット
事業売却には、売却側と買収側の双方に多くのメリットがあります。以下にその具体的な利点を詳細に説明します。
売却側のメリット
売却側には以下のようなメリットがあります。これらの利点を活用することで、企業の財務健全性や経営効率を大幅に向上させることが可能です。
- 資金調達
事業売却によって得た資金は、新規事業の立ち上げや既存事業の拡大、あるいは負債の返済に充てることができます。
例えば、成長市場への進出を考えている企業が、売却によって得た資金を新規事業のための資金として利用することで、迅速かつ効率的に展開することが可能となります。
これにより、企業は必要なキャッシュフローを確保し、戦略的な投資を行うことができます。
- 経営資源の集中
不採算事業やノンコア事業を売却することで、経営資源をコア事業に集中させることができます。
これにより、企業のリソースを最も効果的に活用でき、主要な事業において競争力を強化することができます。
例えば、大手企業が主力事業に注力するために周辺事業を売却し、集中と選択を行うことが一般的です。
- リスク軽減
リスクの高い事業を売却することで、企業全体のリスクを低減することができます。
特に、市場の変動や規制の変更による影響を受けやすい事業を売却することで、安定した経営を実現することができるでしょう。
これにより、企業は不確実性を減少させ、より予測可能な成長を遂げることができます。
買収側のメリット
買収側にも多くのメリットがあります。これらの利点を理解し、戦略的に活用することで、企業の成長と競争力を大幅に向上させることができます。
- 事業拡大
既存事業とのシナジー効果を期待し、新たな市場や顧客層にアクセスすることができます。
これにより、企業の市場シェアを拡大し、新しいビジネスチャンスを掴むことができるでしょう。
例えば、同業種の企業を買収することで、地域や製品ラインを拡大するケースが見られます。企業は既存の顧客基盤を活用しつつ、新たな収益源を確保することができます。
- 即戦力の確保
既存の事業を買収することで、即戦力として活用できるため、事業立ち上げにかかる時間とコストを削減できます。
これは、新しい事業を一から始める場合に比べて大幅な時間短縮とコスト削減を実現します。
これにより、企業は迅速に市場に参入し、競争優位を確立することができます。
- ノウハウの獲得
売却される事業のノウハウや技術、人材を獲得することで、企業の競争力を強化できます。
特に、特定の技術や市場での経験を持つ事業を買収することで、自社の弱点を補完し、さらなる成長を促進することが可能となります。
これにより、企業は技術革新を加速させ、市場での地位を強化することができます。
事業売却のデメリット
事業売却にはいくつかのデメリットも存在します。これらの課題を理解し、適切な対策を講じることで、売却プロセスをスムーズに進めることができます。
売却側のデメリット
売却側には以下のようなデメリットがあります。これらの課題を事前に把握し、適切な対策を講じることで、売却プロセスをスムーズに進めることができます。
- 手間と時間がかかる
事業売却には多くの手続きが必要で、完了までに時間がかかることがあります。
売却プロセスには、買い手の選定、デューデリジェンス、契約交渉など、多くのステップが含まれます。
これにより、経営陣や従業員のリソースが大きく割かれることがあります。これに対処するためには、専門家のサポートを受けることが必要となります。
- 組織再編の負担
事業売却に伴う組織再編や従業員の対応が必要となり、経営に負担がかかることがあります。
特に、売却される事業に従事する従業員の再配置や、新たな職務に対するトレーニングが必要となる場合があります。
これに対処するためには、事前に詳細な計画を立て、従業員とのコミュニケーションを密に行うことが重要です。
- 競業避止義務
事業売却後、一定期間同じ地域で同様の事業を行うことが制限される場合があります。
これは、売却先との契約で競業避止義務が設定されるためであり、売却後の新たな事業展開に影響を与えることがあります。
これに対処するためには、競業避止義務の範囲や期間を事前に明確にし、計画的に事業戦略を練ることが重要です。
買収側のデメリット
買収側にもいくつかのデメリットがあります。これらの課題を理解し、適切な対策を講じることで、買収プロセスをスムーズに進めることができます。
- 許認可の取得が必要
事業によっては、売却側が受けている許認可や資格を買収側が新たに取得する必要があります。
これには時間とコストがかかり、場合によっては買収の遅延や追加費用の発生を引き起こすことがあります。
これに対処するためには、事前に必要な許認可や資格を確認し、計画的に準備を進めることが重要です。
- 消費税の負担
課税対象の資産を買収する場合、消費税が発生します。
これにより、買収コストが増加するため、事前に税務面での詳細な検討が必要です。これに対処するためには、専門家のサポートを受けることが重要です。
- 従業員や取引先との契約
新たに従業員や取引先との契約を結ぶ必要があり、これには時間と手間がかかります。
特に、重要な従業員や取引先との関係を維持するためには、細心の注意を払い、信頼関係を築く努力が求められます。
これに対処するためには、事前に詳細な計画を立て、従業員や取引先とのコミュニケーションを密に行うことが重要です。
事業売却で発生する税金
事業売却においては、売却側と買収側の双方に対して様々な税金が発生します。
これらの税金を適切に理解し、事前に対策を講じることは、事業売却を成功させるための重要な要素です。
以下では、事業売却に関連する税金について詳しく解説します。
売却企業側の税金
売却企業側が事業売却を行う場合、得られた売却益に対して法人税が課されます。
事業売却は、通常、資産の売却が伴うため、これにより譲渡益が発生します。譲渡益は、売却価格から取得価額や売却に要した費用を差し引いた金額です。
具体的には、次のような法人税が発生します。
- 法人税:売却益に対して課される税金で、法人の所得に応じた税率が適用されます
- 法人住民税:地方自治体に支払う税金で、法人税の一部として課されます
- 法人事業税:事業を行うために必要な税金で、法人税とは別に課されます
- 特別法人事業税:法人事業税の一部で、特定の要件に基づいて課されます
売却側の企業は、これらの税金を合算した「実効税率」に基づいて納税義務を果たさなければなりません。通常、実効税率は約30%程度となります。
さらに、事業売却による売却益が大きい場合、その利益に対しても追加の税金が発生することがあります。したがって、事前に税務専門家と相談し、最適な税務戦略を立てることが重要です。
買収企業側の税金
買収企業側は、事業売却に伴う課税取引に対して消費税が課されます。消費税は、売却される資産の種類に応じて発生するため、売却される資産が課税対象であるかどうかを確認する必要があります。
具体的には、以下のような資産が課税対象となります。
- 有形固定資産:建物や機械設備など、目に見える物理的な資産
- 無形固定資産:特許権や商標権など、物理的には存在しないが価値を持つ資産
- 棚卸資産:販売を目的とした在庫商品など
一方で、土地や有価証券、売掛金・貸付金などは課税対象外となります。
これにより、買収企業側は売却資産に対して10%の消費税を支払う義務があります。消費税の負担を考慮した上で、買収価格を設定することが重要です。
また、事業売却に伴う無形資産(例えば「のれん」)は、会計上減価償却の対象となります。
買収後5年間は、のれんの相当額を損金として処理できるため、節税効果が期待できます。
事業売却の流れ
事業売却は複雑なプロセスであり、多くのステップを経て進められます。
以下に、事業売却の一般的な流れを詳細に解説します。これらのステップを理解し、計画的に進めることで、事業売却をスムーズに完了することができます。
売却事業の決定
最初のステップは、どの事業を売却するかを決定することです。
事業ポートフォリオを見直し、各事業の収益性や市場シェア、将来性を評価します。
これに基づき、不採算事業やノンコア事業を特定し、売却候補として選定します。
売却事業の数字の整理
次に、売却する事業の財務情報を整理します。
貸借対照表や損益計算書を準備し、売却対象事業の収益性や資産価値を明確にします。
これには、事業別の財務諸表の作成や、間接費の適切な配分が含まれます。
買い手探し
準備が整ったら、売却事業に興味を持つ買い手を探します。これには、次のような方法があります。
• 直接打診
既存のビジネスネットワークを活用し、買い手候補に直接アプローチします。
• 仲介会社の利用
M&A仲介会社を通じて、広範な買い手候補を探します。
• 金融機関への相談
取引のある金融機関に相談し、適切な買い手を紹介してもらいます。
基本合意
買い手が見つかり、売却条件に合意したら、基本合意書を締結します。
基本合意書には、売却スキームや価格、譲渡範囲などの基本的な条件が含まれます。
この段階では法的拘束力はありませんが、後の交渉をスムーズに進めるための重要なステップです。
デューデリジェンス
買収側は、売却対象事業の詳細な調査(デューデリジェンス)を行います。これには、財務、法務、税務、業務など多岐にわたる調査が含まれます。売却側は、必要な資料を提供し、ヒアリングに応じる準備が求められます。
事業譲渡契約書の締結
デューデリジェンスが完了し、最終的な条件に合意したら、事業譲渡契約書を締結します。
契約書には、譲渡対象事業の詳細、譲渡対価、譲渡期日、その他の重要事項が明記されます。
移転手続き
契約締結後、売却資産の移転手続きを行います。
これには、買収側が取引先や従業員との契約を結ぶことや、必要な許認可の取得が含まれます。
売却側は、買収側が円滑に手続きを進められるよう協力します。
まとめ
この記事では、事業売却の基本的な概要から、価値算定の方法、メリット・デメリット、税金、具体的な売却プロセスまでを詳しく解説しました。
売却事業の決定から移転手続きまで、事業売却には多くのステップがあり、計画と専門家のサポートが成功の鍵です。
事業売却とは、企業が持つ事業の一部またはすべてを第三者に売却することを指します。事業売却を行う際には、DCF法や時価純資産法などを用いて事業価値を正確に評価することが重要です。
これにより、適切な売却価格を設定し、交渉をスムーズに進めることができます。
事業売却は企業の戦略的な選択と集中を実現するための重要な手段です。成功させるためには、詳細な計画と専門家のサポートが不可欠であることを認識しておきましょう。