ebitda倍率とは?算出方法や企業価値の評価法について解説
M&Aについて検討する段階に入ると、「EBITDA」といった一般には聞き慣れない指標を耳にするようになるでしょう。
EBITDAは、株式投資などでもよく活用されている指標です。
EBITDAは、企業が稼ぎ出す営業利益などによく似た指標として知られていますが、細かい部分を見ると異なる点があり、その意味も違っています。
そして、EBITDAという数値はM&Aで日本国内にある企業だけではなく、海外拠点やグローバル企業の評価にも役立てることができることから、M&Aや株式投資などでよく活用されています。
そこでこの記事では、EBITDAを使用した「EV/EBITDA倍率」と呼ばれる指標について解説していきます。
この記事でわかること
- EV/EBITDA倍率の定義
- EV/EBITDA倍率の算出方法
- EV/EBITDA倍率の基準
- EV/EBITDA倍率を用いた企業価値の評価方法
- EV/EBITDA倍率を使用する際のメリットとデメリット
EV/EBITDA倍率の定義
EV/EBITDA倍率を考える場合は、まずはEV(事業価値)とEBITDA(本業の利益)の2つの数値の意味を知ることから始めてください。
そして、EV/EBITDA倍率とは、事業価値が本業の利益の何倍になっているのかを示す指標であることを理解していきましょう。
- EVとは「事業価値」のこと
- 「EBITDA」とは?
- EV/EBITDA倍率について
EVとは「事業価値」のこと
EVとは、英語ではEnterprise Valueで、事業価値を表す指標です。
読み方は「イーブイ」です。
EVを計算式で表すと次のようになります。
時価総額+純有利子負債
純有利子負債は、有利子負債から現預金を除いた額です。
事業価値に負債が含まれる理由は、負債であっても将来回収できる見込みがあると債権者が考えているからです。
「EBITDA」とは?
「EBITDA」は、「イービットディーエー」などと読みます。
こちらは、「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の頭文字を取った言葉です。
直訳すれば、利息、税金、減価償却費及び償却費控除前の収益、となります。
償却前営業利益とほぼ同等の意味があります。
Depreciationは、有形固定資産の減価償却費のこと。
Amortizationは、無形資産の減価償却費のこと。
EV/EBITDA倍率について
この章の最初に、EV/EBITDA倍率とは、EV(事業価値)がEBITDA(本業の利益)の何倍かを表す指標であるということをご説明しました。
M&Aで企業を買収する際には、買収する企業を何らかの基準で評価しなければなりません。
EV/EBITDA倍率を使用すると、初期投資額を何年で回収できるかといった投資効果を簡単に判断できます。
こうした理由から、EV/EBITDA倍率は、様々な企業の株価を比較する尺度として世界的に活用されるようになってきています。
EV/EBITDA倍率の算出方法
EV/EBITDA倍率はどのように計算されているのでしょうか?
この章では、順に計算の流れを追って説明したうえで、計算例についてもご紹介していきます。
- EVの計算方法
- EBITDAの計算方法
- EV/EBITDA倍率計算例
EVの計算方法
最初に算出しなければならないのが、EVです。
EVは、株式時価総額と純有利子負債の合計です。
株式時価総額は、株価✕株式数で算出できます。
上場企業の場合は、株価がすぐにわかりますので、株式時価総額もすぐに算出できます。
純有利子負債は、金融機関から借りた借入金に対して金利を付けて返済する負債のことです。
そして、事業に関係のない遊休不動産や投機目的有価証券などを差し引いて算出します。
EBITDAの計算方法
EBITDAは、営業利益と減価償却費を加算して算出しています。
営業利益は、会社でもおなじみの言葉ですが、その企業が本業で上げた利益です。
一般的に、営業利益は、粗利益からコストを差し引いて計算しています。
営業利益には、減価償却費が含まれていません。
そのため、EBITDAでは、減価償却費を営業利益に加えて、設備投資を考慮した現実的な数字に近づけることができます。
EV/EBITDA倍率計算例
数値を算出するためには、EVとEBITDAの両方を求めることができたら、EVをEBITDAで割るだけで、EV/EBITDA倍率の算出が可能です。
この数値を見れば、投資回収に必要なおおよその期間を知ることができます。
株式時価総額1億円、有利子負債300万円、現預金1,000万円、営業利益1,000万円、減価償却費200万円だと仮定し、EV/EBITDA倍率を計算してみましょう。
EV(9,300万円)=1億円+300万円−1,000万円
EBITDA(1,200万円)=1,000万円+200万円
EV/EBITDA倍率(7.75)=9,300万円÷1,200万円
この企業を買収した際にかかるコストは、7.75年以内で回収できると予想できます。
EV/EBITDA倍率の基準
EV/EBITDA倍率が計算できるようになると、様々な企業で試してみたくなります。
その際は、EV/EBITDA倍率に関する平均倍率やEV/EBITDA倍率の目安など、指標が持つ意味をよく理解していると、正しい判断ができるようになります。
この章では、EV/EBITDA倍率の基準について解説していきます。
- 世界でも通用するEBITDAを使用した指標
- EV/EBITDA倍率の平均倍率
- EV/EBITDA倍率の目安
世界でも通用するEBITDAを使用した指標
EBITDAやEV/EBITDA倍率は、日本だけではなく、世界でも通用する指標です。
海外は、どんな企業であっても、市場環境や法律、会計基準、税率、金利などが日本とは全く異なります。
前提が異なると単純比較ができないことから、海外企業を参考にする場合は、EBITDAやEV/EBITDA倍率などのM&Aでもよく利用されている指標を使うようにしてください。
EV/EBITDA倍率の平均倍率
EV/EBITDA倍率の平均は、8〜10倍です。
概ね8倍程度であれば「割安」だと判断されています。
東証一部上場企業の平均的なEV/EBITDA倍率も8〜10倍程度です。
非上場企業になると、もう少し下がることがあります。
EV/EBITDA倍率の目安
EV/EBITDA倍率は8〜10倍が平均だということでしたが、8倍以下になると「割安」という意味になります。
これはあくまでも東証一部上場企業の目安です。
非上場の中小企業の場合は、3〜5年ほどです。
非上場企業の多くのM&Aでは、買収価格に平均して3〜5年分の収益が加算されているからです。
これは、中小企業なら買収後、3〜5年程度で投資額が回収できるという意味を持つと考えられます。
EV/EBITDA倍率を用いた企業価値の評価方法
この章では、前章よりもより詳しくEV/EBITDA倍率を用いた企業価値の評価方法を解説していきます。
- EV/EBITDA倍率
- 類似企業比較法として利用されている「EV/EBITDA倍率」
- 投資効率がわかりやすくなる
- 原価コスト削減に活用
- 営業利益を改善する
- 商品やサービスなどの値上げ判断材料
EV/EBITDA倍率
EV/EBITDA倍率は、事業価値がEBITDAの何倍にあたるのかを示す指標です。
日本語では「簡易買収倍率」と訳されています。
この指標から、企業が買収を実施した際に、その投資コストを回収できるまでの年数がわかります。
こうした理由から、M&Aではよく活用されています。
類似企業比較法として利用されている「EV/EBITDA倍率」
「EV/EBITDA倍率」はM&Aだけに利用されているわけではありません。
企業評価の際にも用いられています。
「EV/EBITDA倍率」は、マーケットアプローチに含まれている指標です。
そして、マーケットアプローチの中では、「類似企業比較法」に相当します。
これは、売り手企業と似た上場企業を探して、その企業の数値を参考に企業を評価する方法です。
投資効率がわかりやすくなる
EV/EBITDA倍率を正しく知ると、投資効率を知る目安がわかりますので、M&Aや真の企業価値の評価にも役立ちます。
また、M&A価格が割安か割高なのかどうかの判断も可能です。
しかし、実際には、EV/EBITDA倍率以外にも複数の指標を使った企業評価が行われており、多面的な分析が必要となります。
正確な企業評価は、M&A専門家でなければできないことでしょう。
原価コスト削減に活用
商品やサービスの原価削減にEV/EBITDA倍率が使用されることがあります。
しかも、このケースは細かいコスト削減ではなく、全社的なコスト削減方法となることから、大きな削減効果が見込まれるでしょう。
- 取引先の見直し
- 材料費や外注費の削減
営業利益を改善する
営業利益を改善すれば、EV/EBITDA倍率も同様に改善していきます。
営業利益が増えると、有利子負債に対しての返済にも余裕が出ます。
また、増加した利益で自己株式を消却すれば、時価総額を下げることができます。その際、株価は下落しないため、株主にも損失を与えません。
商品やサービスなどの値上げ判断材料
売上数が横ばいでも、値上げすることによって、単純に売上純利益が増加していきます。
そして、同時にEV/EBITDA倍率もよくなっていきます。
しかし、顧客が不満を持つような値上げには注意しなければなりません。
EV/EBITDA倍率を使用する際のメリットとデメリット
EBITDAを使用した指標は他にもありますが、今回紹介しているEV/EBITDA倍率はメリットの多い指標として知られています。
そこで、この章ではEV/EBITDA倍率に関するメリットとデメリットについて整理しました。
- EV/EBITDA倍率を使用するメリット
- EV/EBITDA倍率を使用するデメリット
EV/EBITDA倍率を使用するメリット
- 計算式が簡単でわかりやすい
- 減価償却の影響を排除できる
- 日本以外の海外企業との比較検討に利用可能
計算式が簡単でわかりやすい
EV/EBITDA倍率は、計算式がとても簡単です。
必要な数値も企業の利益、利息、減価償却費など、上場企業ならすぐにでも入手できるものばかりです。
しかも企業の実態に近い数値が算出できます。
減価償却の影響を排除できる
メーカーなどで工場や設備などの固定資産が多い企業は、企業業績において有形・無形固定資産の減価償却費に大きな影響を受けます。
減価償却費が影響しないEV/EBITDA倍率を使用することで、キャッシュベースでの比較検討が可能です。
そのため、設備投資の多い業種と少ない業種との比較検討もしやすくなります。
日本以外の海外企業との比較検討に利用可能
EV/EBITDA倍率を使用すると、税率や会計基準に関係なく、世界各国にある優良企業との業績比較検討が可能となります。
海外企業との取引や投資を考えている場合は、より正確に比較検討ができます。
EV/EBITDA倍率を使用するデメリット
- 税金や支払利息が除かれていること
- 設備投資の影響がわからないこと
税金や支払利息が除かれていること
税金や支払利息は、各経済圏や各国ごとに異なり、実際には無視できない数値です。
企業の価値は収益だけでは判断できないからです。
設備投資や借入金、税制度などにも影響を受けることがありますので、その地域の特殊事情や重要な数値は見逃さないようにしなければなりません。
設備投資の影響がわからないこと
減価償却費の影響を受けないことはメリットですが、逆に設備投資の影響がよくわからないというデメリットにもなっています。
実施した設備投資に継続性があるのか、一時的な支出なのかどうかなど、企業の収益だけではその企業の価値を正しく判断できないこともありますので注意すべきです。
まとめ
この記事では、株式投資や企業評価、M&Aなどで活用されているEBITDA倍率について詳しく解説してきました。
さらにEBITDA倍率の算出方法や企業価値の評価法についても解説しています。
M&Aについて実際に検討する段階に入ると「EBITDA」や「EV/EBITDA倍率」といった一般には聞き慣れない指標を耳にするようになるでしょう。
EBITDAやEBITDAを使用した指標は、株式投資や企業が稼ぎ出す営業利益などによく似た指標として知られています。
もちろん、細かい部分をみてみると、異なる点が多数あります。そして、その意味も大きく異なっています。
そして、EBITDAを使った指標は、M&Aなどで日本国内にある企業だけではなく、海外拠点やグローバル企業の評価にも役立てることができることから、M&Aはもちろんのこと、株式投資などでもよく活用されています。