調剤薬局M&Aの現状と買収価格の相場について
M&Aの最新動向でも注目を浴びているのが、調剤薬局(ドラッグストア)のM&A案件が増加傾向にあるという点です。
M&Aとは企業の合併と買収ですが、企業そのものを売買するような取引は大掛かりな取引であることから、他の業界も無視できないものになってきています。
また、薬局は、どの程度の価値で取引されているのでしょうか?
薬局の取引事例が増えていることから、ある程度の買収価格の相場も形成されています。
この記事では、調剤薬局M&Aの現状と買収価格の相場について解説していきます。
この記事でわかること
- 調剤薬局M&Aの動向について
- 調剤薬局M&Aのメリットやデメリット
- 調剤薬局買収価格の相場
調剤薬局M&Aの動向について
M&A業界において、調剤薬局のM&A件数の件数は年々増加しています。
理由は、個人薬局の後継者不足といったものが多く、売却を検討している方が年々増えているからです。
コンビニよりも多いと言われている調剤薬局のM&Aの取引件数は今後も増えていくことが予想されており注目されています。
そこでこの章では、調剤薬局のM&Aの動向について解説していきます。
- 調剤薬局業界の市場概況
- 調剤薬局はどんな業界業種?
- 業界の最近の動向や変化
- 調剤薬局のM&Aの最新動向
調剤薬局業界の市場概況
調剤薬局市場は、近年も新規出店が盛んです。
出店数は、2019年時点でも6万件を突破しています。(厚生労働省の発表)。
年々業界が拡大していることから、出店数の増加に伴い、M&A件数もさらに増えています。
新調剤報酬の枠組みへの対応、在宅医療の増加、介護施設の患者への調剤処理件数の増加などによって、業界全体の需要も上昇してきています。
しかし、2年に一度実施されている薬価改定と調剤報酬の改定によって、業界が伸び悩む構造が問題となっています。
新規出店数は鈍化してきていますが、個人薬局の後継者不足によって、M&A件数は増えてきています。小規模薬局を統合整理して、店舗の大型化で生き残りを考える調剤薬局が増えているからです。
調剤薬局はどんな業界業種?
調剤薬局は、病院で診療を受けた後、処方箋を受け取って薬局で薬を受け取るというスタイルです。当初に比べて、医薬分業率が75%を超えるようになり、調剤薬局はかなりの数になってきています。
調剤薬局の売上は、薬の販売収入と調剤報酬に左右されます。
そのため、病院や介護施設などの近くに店舗を構えることが、安定して経営を続ける秘訣です。
ところが、2018年の調剤報酬改定では、調剤報酬の見直しが行われ、病院の近くではなく、街中のかかりつけ薬局や管理コストの高い薬局のほうが高い報酬を得られるように調整されました。
その結果、処方箋の処理数ではなく、サービスの品質の高さや多様性などが評価されるようになってしまいました。
このように、調剤薬局も整理統合が必要なことから、近年、M&A案件も増加していると考えることができます。
業界の最近の動向や変化
2020年後半までは、新規出店が盛んで業績も好調な調剤薬局が多かったようです。
しかし、新たな調剤報酬制度への対応が必要なことや、在宅医療の増加、介護施設への調剤処理件数の増加などに伴い、業界全体の構造改革が迫られてきています。
そのため、調剤薬局の新規出店数は鈍化傾向にあります。
そして、大規模チェーン店と小規模薬局との二極化が進みつつあります。
両者をつなぎ、調剤薬局同士の整理統合をするのにM&Aが一役買っている、ということになるでしょう。
調剤薬局のM&Aの最新動向
少子高齢化によって今後はさらに医療費が増加していくことが予想されることから、厳しいコスト削減が迫られる業界です。
調剤薬局の場合は、薬剤師などの優秀な人材確保は必要不可欠であり、生き残りをかけての各社の人材確保が難しくなっていくでしょう。
業界再編のために、従業員の雇用維持や高齢化による事業承継などを検討するためにも、M&A件数が急増しています。
また、規模拡大を狙ったM&Aばかりではなく、中小個人薬局の経験豊富な有資格者や従業員数の獲得、雇用維持のための事業承継、地域に根ざした調剤薬局の展開などにもM&Aが積極的に活用されています。
調剤薬局M&Aのメリット
この章では調剤薬局業界でM&Aを実施する際に、売り手側と買い手側のそれぞれの立場から見たメリットについて解説します。
売り手側
- 後継者問題解決手法の一つ
- 事業が拡大できる
- 創業者利益の獲得
後継者問題解決手法の一つ
小規模で経営している薬局の場合は、後継者問題で頭を悩ませているケースが少なくありません。
薬剤師の確保や制度変更によって収益が左右されることから、後継者が減っているのは事実です。
そこで、M&Aによる事業承継を行うなら、最適な後継者選びができる可能性が広がります。
事業が拡大できる
小規模な薬局ではなく、事業の一つとして調剤薬局を運営しているような多角化経営を行っている企業グループでも、関連性の高い業種とのシナジー効果を期待したM&Aが期待できます。
創業者利益の獲得
後継者がいないケースでは廃業を選ぶ勇気も必要です。
しかし、廃業ではなく、調剤薬局を売却すれば、創業者利益などの売却益が得られます。
従業員も解雇することなく、そのまま事業を続けてもらえるでしょう。
調剤薬局は経営が難しい事業で、薬剤師も不足していることから、すでに成功実績のある調剤薬局事業なら、高値で売却できます。
買い手側
- 薬剤師が確保できる
- 迅速な事業拡大
- 規模の経済によるコスト削減
薬剤師が確保できる
専門性の高い薬剤師や従業員などが即時確保できることです。
例えば、人材の少ないと言われる地方での調剤薬局経営でもM&Aで既存の調剤薬局を買収すれば、薬剤師の確保が容易です。
迅速な事業拡大
調剤薬局を買収すれば、医薬品の取扱量が増え、大量仕入れによるコスト削減が可能です。売上高の増加だけではなく、利益率もアップし経営成績も向上します。
シナジー効果はそれだけではありません。
知名度の向上や新規ノウハウの獲得など、経営を軌道に乗せやすくなり、薬剤師なども確保しやすくなります。
規模の経済によるコスト削減
調剤薬局でも規模の経済が作用します。
事業規模が大きくなると、コストが下がり競争力が高まります。
M&Aで店舗数が増えると、医薬品の取扱量が増え、大量仕入れが可能です。
また、店舗同士のノウハウの共有化や効率化によって業務コストも大幅削減可能です。
調剤薬局M&Aのデメリット
調剤薬局M&Aはメリットばかりではありません。
デメリットについてもしっかりと確認し、事前に考えられるリスクをカバーできるようにしておきましょう。
この章では調剤薬局業界でM&Aを実施する際に、売り手側と買い手側のそれぞれの立場から見たデメリットについて解説します。
売り手側
- 薬剤師や従業員が離職するリスク
- 顧客や取引先の反対にあう
- 売却先がすぐに見つからない
薬剤師や従業員が離職するリスク
働いている薬剤師や従業員が離職する可能性があることです。
契約条件や勤務環境が大きく変わってしまうと、薬剤師や従業員は離職や転職しなければならないからです。
また、薬剤師が離職することがわかると、M&Aの金額も大きく変わってしまいますので、離職を防ぐ対策が必要です。
顧客や取引先の反対にあう
病院の「かかりつけ医」と同じように、担当の薬剤師がいなくなってしまうと、薬局を長期間利用していた顧客が離れていく恐れがあります。
また、重要な取引先が事業売却に反対する恐れもあります。担当窓口が変わってしまうと、今までと同じような大量仕入れなどができなくなる恐れもあるからです。
売却先がすぐに見つからない
調剤薬局は特殊な業界であることから売却先が豊富に存在するというわけではありません。
M&A先探しが長期化する恐れもあることから、計画的に売却先を探し、慎重に絞り込む必要があるでしょう。
調剤薬局のM&Aは、通常のM&A取引とは異なり、6ヶ月以上の期間が必要となることがあるからです。
買い手側
- 薬剤師が離職する可能性
- 従業員同士の統合が難しい
- 簿外債務のリスク
薬剤師が離職する可能性
これは、売り手側も同様のデメリットです。
離職した後は、別の企業へ転職してしまう恐れもあります。
離職してもらいたくない場合は、働いている従業員や薬剤師からしっかりとヒアリングを行い、できる限り希望に沿うような配慮が必要です。
従業員同士の統合が難しい
M&Aでの従業員は、買い手側の従業員と譲り受けた従業員が存在するため、M&A成立後の従業員の統合が難しいといったケースがあります。
相互に良好な人間関係が構築できない場合は、シナジー効果も生まれません。
人間関係の問題は特に難しく、最も困難な作業であることを覚悟しておきましょう。
簿外債務のリスク
M&Aの原則として、売り手側は簿外債務などの負の情報も買い手側に正直に申告する必要があります。
デューデリジェンスが徹底されていなかったとしても、隠れた簿外債務を引き受けてしまうと、表明保証違反で損害賠償や損失補填などのM&A成立後のトラブルに発展する恐れがあるからです。
調剤薬局買収価格の相場
調剤薬局のM&A案件は年々増加しています。
一般的なM&Aと同様に、調剤薬局の企業価値の算定は特殊な要因もあって大変難しいものとなっています。
そこで、この章では調剤薬局買収価格の相場、その変遷、株式譲渡の場合の事例についてご紹介していきます。
- 薬局売却時の相場はどう決まるのか?
- 調剤薬局M&Aの取引相場の変遷
- 株式譲渡の事例
薬局売却時の相場はどう決まるのか?
薬局売却時の相場は、将来性やリスクなどを加味して決まっています。
一般的な決定方法は、次のとおりです。
時価純資産価額+3〜5年分の純利益(営業権価格)
この2つの要素だけで薬局の価格が決まるわけではありませんが、譲渡先企業の要望などもよく聞いて、条件交渉を行い、売却価格が決まっています。
時価純資産価額は、貸借対照表を参考にすると、下記の資産を時価で再評価し、時価ベースの純資産を算出しています。
- 棚卸資産
- 設備
- ソフトウェア資産
- 売掛金
3〜5年分の純利益(営業権価格)
営業利益から薬局の将来性や経営リスク等を総合的に考慮し、3〜5年分の経営状況から予測される純利益です。
営業権価格とも呼ばれ、その薬局が利益を上げる力を価格で示しています。
調剤薬局M&Aの取引相場の変遷
店舗規模が小さい調剤薬局は初期投資が少なく、財務内容もシンプルでスリムです。
一昔前は、将来キャッシュフロー(CF)の見積もり計算においては、次のようなある程度の幅をもたせた計算方法が採用されていました。
営業利益+減価償却費の3~10年分での営業権
しかし、現在では2年に一度の診療報酬改定があるため、将来の収益性が予想できません。
そのため、見積もり期間を短くした下記の取引価格算出方法が一般的になっています。
営業利益+減価償却費の3〜5年分での営業権
株式譲渡の事例
株式譲渡の場合は、ある薬局の営業権(事業価値)に事業外資産をプラスしたものが企業価値として算出できます。
事業価値は売上高だけではありません。
下記の項目もプラス要素として企業価値に加算されます。
- 技術料
- 固定資産
- 薬の在庫
事業外資産とは、事業には関係のない有価証券などの金銭的価値のある資産です。
しかし、有利子負債が存在する場合は、企業価値から有利子負債分を減額したものが株式価値となります。
もちろん、この株価はあくまでも目安となり、M&A交渉のたたき台となります。
実際には、デューデリジェンスを行い、簿外債務などの潜在的リスクがないことを確認し、売り手側からの信頼できる情報を加味して株式譲渡価格が決定されることになります。
まとめ
この記事では、最近増加傾向にある調剤薬局M&Aの現状と買収価格の相場についての様々な情報を要点を絞って解説しました。
M&Aは、様々な業界で利用されてきていますが、調剤薬局(ドラッグストア)のM&A案件が増加傾向にあるためにかなり注目されてきています。
M&Aとは、企業の合併と買収ですが、企業そのものを売買するような取引は大掛かりな取引です。
記事内でもご説明しましたが、調剤薬局特有の問題解決に役立つからこそ利用する機会が増えている、と考えるべきでしょう。
さらにこの記事では薬局はどの程度の価値で取引されているのか、といった企業価値の算定方法についても触れています。
一定件数のM&A案件も安定して出ていることから、買収価格の相場も形成されており、M&A売却案件はネットでも検索して調べることができます。
気になる方は、この記事を参考にしながら、今現在どのような調剤薬局のM&A案件が出ているかすぐに検索して調べることができるでしょう。