合同会社とは?事業売却の方法と税務のポイントを詳しく解説
合同会社の事業売却を検討している方は、「どの売却方法を選ぶべきか」「税務上の注意点は何か」といった悩みを抱えているのではないでしょうか。
実は、売却方法によって手続きの複雑さや税務上の扱いが大きく異なるのです。
本記事では、事業譲渡や持分譲渡といった主要な売却方法の特徴と、それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説します。さらに、見落としがちな税務のポイントもわかりやすく説明していきます。
合同会社とは
合同会社は、経営の自由度が高く、低コストで始められる会社形態です。2006年の会社法施行により導入された比較的新しい会社形態で、アメリカのLLCをモデルとしています。
特徴的なのは、出資者全員が有限責任を負い、出資額以上の責任を負わない点です。さらに、出資者が直接経営に携わることで、迅速な意思決定が可能となっています。
たとえば、利益配分や議決権の割合を定款で自由に設定できるため、事業規模や目的に応じた柔軟な組織づくりができます。個人事業からの法人化を考える方や、少人数での起業を目指す方に適した選択肢となっているのです。
このように、合同会社は設立のしやすさと運営の自由度を兼ね備えた会社形態ですが、事業売却を検討する際には、その特徴を踏まえた適切な手法の選択が重要となります。
合同会社の事業売却方法とそれぞれのメリット・デメリット
合同会社の事業売却には、事業譲渡や持分譲渡など、さまざまな方法が存在します。それぞれに特徴があり、会社の状況や売却の目的に応じて最適な手法を選ぶことが大切です。以下4つの手法の特徴を詳しく解説します。
- 事業譲渡
- 持分譲渡
- 株式会社への組織変更後の株式譲渡
- 吸収合併
事業譲渡
事業譲渡は、合同会社が持つ特定の事業資産を他社へ売却する手法です。設備や知的財産、顧客情報などを個別に譲渡できるため、売却範囲を柔軟に設定できます。この方法では、社員の過半数の同意を得たうえで、資産ごとに手続きを進めていきます。
メリット
事業譲渡の最大の利点は、売却対象を必要な資産に限定できることです。そのため、買い手は不要な資産やリスクを引き継がずに済み、売り手も会社を存続させたまま他の事業を継続できます。
たとえば、複数の事業を展開している場合、収益性の高い事業だけを残して他を売却するといった戦略的な判断が可能となります。このように、双方にとって柔軟な事業再編を実現できる点が大きな魅力です。
デメリット
事業譲渡では、資産や契約を個別に移転する必要があるため、手続きが煩雑になります。とくに、許認可が必要な事業の場合、新たな申請が求められるほか、取引先との契約も改めて締結しなければなりません。
また、譲渡益に対する法人税の負担も考慮が必要です。これらの手続きには専門家のサポートも必要となり、時間とコストがかかる点が課題となっています。
持分譲渡
持分譲渡は、合同会社の出資者の地位を譲渡する方法です。会社全体を包括的に売却できる手法として知られています。ただし、原則として全社員の同意が必要なため、内部での合意形成が重要です。譲渡価格の設定から契約締結まで、慎重な対応が求められます。
メリット
持分譲渡の利点は、会社の資産や負債を一括して移転できることです。個別の資産移転手続きが不要なため、事業譲渡と比べて手続きがシンプルとなります。
また、買い手にとっては出資者となることで経営に直接参加できる利点があり、スムーズな事業承継が可能です。とくに、既存の取引関係や従業員との雇用関係をそのまま維持できる点は、事業の継続性を重視する場合に有効となります。
デメリット
持分譲渡の課題は、全社員の同意が必要となる点です。一人でも反対があると譲渡が困難になります。
また、株式と異なり市場価格が存在しないため、持分の価値評価が難しく、譲渡価格の決定に時間がかかることがあります。さらに、買い手は会社の潜在的なリスクも含めて引き継ぐことになるため、詳細なデューデリジェンスが必要となり、交渉が長引く可能性もあるのです。
株式会社への組織変更後の株式譲渡
この手法は、まず合同会社を株式会社に変更し、その後に株式として売却する方法です。より広い範囲の買い手候補にアプローチできる利点がありますが、組織変更には全社員の同意と法的手続きが必要です。株式会社化による信用力の向上も期待できます。
メリット
株式会社化することで、株式市場での評価基準に基づいた価値算定が可能となります。これにより、投資家や金融機関からの資金調達がしやすくなるほか、M&Aマーケットでの売却機会も広がるでしょう。
また、株式という形態は一般的な投資商品として認知されているため、買い手候補との交渉もスムーズに進めやすく、よりよい条件での売却が期待できます。
デメリット
組織変更には、定款の作成や登記申請など、複雑な手続きが必要です。また、株式会社特有の規制も適用され、取締役会の設置や決算公告が必要になるなど、運営コストが増加します。
さらに、これらの手続きには時間とコストがかかるため、急いで売却を進めたい場合には適さない可能性があります。
吸収合併
吸収合併は、合同会社を他社に統合する手法です。事業資産や負債、契約関係を包括的に引き継げる特徴があり、両社の経営資源を効率的に活用できます。ただし、合併後は元の合同会社は消滅するため、慎重な判断が必要となります。
メリット
吸収合併では、事業の継続性を保ちながら、経営資源を効率的に統合できます。取引先との契約や従業員の雇用関係も自動的に承継されるため、個別の手続きが不要です。
また、企業規模の拡大によるスケールメリットも期待でき、市場での競争力強化やコスト削減といったシナジー効果も見込めます。
デメリット
最大の課題は、企業文化や経営方針の違いによる統合リスクです。従業員のモチベーション低下や顧客離れが起こる可能性があるのです。
また、債権者保護手続きや従業員との労働条件の調整など、利害関係者との調整に時間がかかります。さらに、合併後は元の会社が消滅するため、一部事業だけを切り離して売却するといった柔軟な対応ができなくなります。
合同会社の事業売却で考慮すべき税務上の注意点
事業売却にはさまざまな税務上の注意点が存在します。売却方法によって課税の扱いが異なるため、事前に専門家に相談しながら、慎重に検討を進めることが重要です。ここでは、以下の注意点について詳しく解説します。
- 譲渡益に対する法人税
- 消費税の課税対象
- 従業員の雇用継続に伴う税務処理
- 譲渡資産の種類による税務上の取り扱い
- 繰越欠損金の取り扱い
- 税務上の特例や優遇措置の適用可否
- 税務調査への対応
譲渡益に対する法人税
事業売却で生じる譲渡益には法人税が課されます。この譲渡益は、売却額から帳簿価額を差し引いた金額となります。
たとえば、帳簿価額1,000万円の資産を2,000万円で売却した場合、差額の1,000万円が課税対象です。法人税率は原則23.2%ですが、中小法人には15%の軽減税率が適用される場合もあります。
消費税の課税対象
消費税は売却する資産の種類によって課税有無が変わります。棚卸資産や設備などは課税対象となりますが、土地や有価証券は非課税です。
また、のれんは不課税となります。そのため、売却資産の内訳を明確にし、課税対象と非課税対象を区分して計算する必要があります。
従業員の雇用継続に伴う税務処理
従業員の雇用を継続する場合、給与所得の源泉徴収義務が売却先に移ります。退職金を支給する際は退職所得控除が適用され、税負担を軽減できる可能性があります。
また、社会保険の切り替えなど、従業員に関連する税務手続きも漏れなく行う必要がある点には注意しましょう。
譲渡資産の種類による税務上の取り扱い
資産の種類によって税務処理が異なります。減価償却資産は未償却残高と譲渡価額の差額が譲渡損益となり、棚卸資産は売上高として計上されます。
のれんは課税対象外ですが、買い手側での償却が可能です。資産ごとの正確な税務処理が求められます。
繰越欠損金の取り扱い
事業譲渡の場合、繰越欠損金を引き継ぐことはできません。ただし、合併など他の手法を選択すれば、一定の条件下で欠損金の引継ぎが可能です。
欠損金の利用を検討する場合は、10年の期限制限にも注意が必要です。また、専門家に相談しながら最適な方法を選択することが重要となります。
税務上の特例や優遇措置の適用可否
中小企業向けの事業承継税制など、一定の条件を満たせば税負担を軽減できる特例措置があります。ただし、適用には事前の計画策定や承継後の事業継続義務が必要となる場合もあるのです。
これらの制度を効果的に活用するには、早めに税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
税務調査への対応
事業売却は税務当局の注目度が高い取引です。譲渡価額の算定根拠を明確にし、関連書類を適切に保管することが重要です。
とくに、第三者の評価機関を利用して価格の妥当性を示すことで、税務調査にも適切に対応できます。
まとめ
合同会社の事業売却には、事業譲渡や持分譲渡、株式会社化後の株式譲渡、吸収合併など、さまざまな方法が存在します。それぞれに特徴があり、会社の状況に応じて最適な手法を選ぶことが大切です。
また、税務面では譲渡益に対する法人税や消費税の取り扱い、従業員の雇用継続に伴う処理など、多岐にわたる注意点があります。売却を成功させるためには、専門家に相談しながら、計画的に準備を進めることをおすすめします。