後継者のいない会社を個人が買う方法|メリットやデメリットを解説

「起業したいけれど、リスクが心配」「すでに実績のある会社を引き継ぎたい」とお考えの方に、個人での会社買収という選択肢をご紹介します。
後継者不在に悩む企業は多く、2025年までに約127万社が後継者未定という現状です。この状況は、個人が既存企業を買収するチャンスともいえます。
この記事では、以下のポイントを詳しく解説していきます。
- 会社を買うための6つのステップ
- 買収のメリット(迅速な開業、既存顧客の活用など)
- 考慮すべきデメリット(財務リスク、運営の難しさなど)
- 企業選びの重要ポイント
個人でも後継者のいない会社を買うことは可能
個人でも後継者のいない会社を買収し、経営を引き継ぐことが可能です。この手法は「個人M&A」と呼ばれ、中小企業の後継者不足という課題を解決する新たな選択肢として注目を集めています。
その背景には、深刻な後継者不足の問題があります。平成30年の中小企業庁年頭所感によると、2025年までに70歳以上となる経営者約245万人のうち、約127万人が後継者未定という状況です。
とくに飲食店や美容サロンなどの小規模事業では、個人による事業承継が増加しています。個人M&Aは、廃業を防ぎ、雇用を維持するだけでなく、地域経済の活性化にも貢献できる可能性を秘めています。
後継者のいない会社の現状
日本の中小企業における後継者不足は、きわめて深刻な状況にあります。平成30年の中小企業庁年頭所感では、このまま対策が取られなければ、約650万人の雇用喪失と約22兆円のGDP損失が予測されています。
この問題の根底には、少子高齢化による後継者候補の減少や、業界の先行きが不透明であることがあげられるのです。しかし、M&Aの活用や事業承継・引継ぎ支援センターの取り組みなど、解決への道筋も見えはじめています。
個人が後継者のいない会社を買う方法
会社を買うには6つのステップがあります。順を追って、それぞれの実施方法を見ていきましょう。
- 目的の明確化
- 買収先の探索
- デューデリジェンス(精査)の実施
- 交渉と契約
- 資金調達
- 事業引き継ぎ
1.目的の明確化
企業買収を成功させるには、まず目的を明確にすることが不可欠です。
目的には、起業の代替手段として実績ある事業を始めるケース、シナジー効果を狙って既存事業を拡大するケースなどがあります。目的が不明確だと運営が迷走するため、買収の指針として明確な目標設定が重要になります。
2.買収先の探索
買収先を見つけるには、複数のリソースを活用することが効果的です。
マッチングプラットフォームでは、「事業承継専門ネット」や「トランビ」などのサービスがおすすめです。また、M&A仲介会社を活用すれば、非公開案件にもアクセスできます。
さらに、商工会議所や事業承継・引継ぎ支援センターといった公的機関のサポートも選択肢の一つです。
3.デューデリジェンス(精査)の実施
デューデリジェンスとは、買収前に企業の状態を詳しく調査することです。
財務面では負債や利益率、法務面では訴訟リスクや未解決の契約、ビジネス面では顧客離れや従業員の状況を確認します。この段階では、弁護士や公認会計士などの専門家に依頼し、簿外債務などのリスクを見落とさないようにすることが大切です。
4.交渉と契約
価格交渉から契約締結まで、専門家のサポートを受けながら慎重に進めます。
交渉では適正価格の見極めが重要で、株式譲渡か事業譲渡かの契約形式も検討が必要です。契約書作成では弁護士のチェックを受け、将来のトラブルを防ぐため、細かな条件まで明確に定めることがポイントです。
5.資金調達
資金調達には、複数の手段を組み合わせることが効果的です。
自己資金に加え、日本政策金融公庫の事業承継向け融資制度や銀行のビジネスローンを活用できます。エンジェル投資家やクラウドファンディングという選択肢もあり、事業計画に応じて最適な調達方法を選ぶことが重要です。
6.事業引き継ぎ
買収後は、従業員や取引先との良好な関係構築が成功のカギとなります。
まず従業員と面談し、新しい経営方針を共有して信頼関係を築きましょう。取引先とは、売り手からの紹介を受けて契約継続を確認します。
業務フローや顧客管理方法など、重要なノウハウの引き継ぎも計画的に進めることが大切です。
個人が後継者のいない会社を買うメリット
個人が後継者のいない会社を買収するメリットは多岐にわたります。主な5つのポイントを解説していきます。
- 迅速に事業を開始できる
- 既存の顧客基盤と取引先を活用できる
- ノウハウと人材を継承できる
- 資産を取得できる
- 事業承継税制を活用できる
迅速に事業を開始できる
既存企業の買収は、ゼロからの起業に比べて短期間で事業を開始できます。たとえば、飲食店の場合、既存の設備や店舗デザインをそのまま活用でき、許認可申請も不要なケースが多くあります。
また、すでに市場で認知された商品やサービスを提供できるため、顧客獲得にかかるリスクも抑えられるでしょう。ただし、経営方針を大きく変更すると既存顧客が離れる可能性もあるため、慎重な判断が必要です。
既存の顧客基盤と取引先を活用できる
買収によって既存の取引ネットワークを引き継げることは、大きなメリットとなります。たとえば、地元で支持されている製造業を買収すれば、長年の取引先との契約を継続できます。
このメリットにより、新規顧客開拓にかかる時間とコストを削減でき、とくに長期契約がある場合は安定したキャッシュフローが期待できるのです。ただし、取引条件の変更は慎重に検討する必要があります。
ノウハウと人材を継承できる
企業買収では、業界特有のノウハウと人材をスムーズに引き継げます。たとえば、熟練技術者のいる工場を買収すれば、専門的な技術やノウハウを直接学ぶことが可能です。
また、前経営者からの直接指導により、経験が少なくても運営できる利点があります。従業員の継続雇用で事業の安定性も保てますが、経営者交代による従業員のモチベーション低下には注意が必要です。
資産を取得できる
企業買収では、事業に必要な資産を一括で取得できます。たとえば、クリーニング店の買収では、店舗設備や配送車両、顧客リストなどの資産をまとめて入手できます。
事業に必要な資産を一括で取得できることで、個別調達の手間とコストを削減でき、優れた立地条件も引き継げます。ただし、機械の老朽化や不動産の修繕など、資産の状態は事前に丁寧な確認が必要です。
事業承継税制を活用できる
事業承継税制を活用することで、買収コストを大幅に削減できます。個人版事業承継税制を利用すれば、贈与税や相続税が猶予または免除される可能性があります。
そのため、買収時の資金負担を軽減でき、資金繰りの安定化にもつながります。ただし、適用条件や手続きが複雑なため、税理士などの専門家のサポートを受けることが重要です。
個人が後継者のいない会社を買うデメリット
会社を買収する際には、さまざまなリスクがあります。主な4つの課題について解説していきます。
- 財務リスクの引き継ぎ
- 事業運営の難易度
- 法務リスクの存在
- 企業文化の違い
財務リスクの引き継ぎ
企業を買収すると、既存の負債や未公開の財務問題も一緒に引き継ぐことになります。たとえば、簿外債務や退職金の支払い義務、未払税金など、帳簿に記載されていない債務が後から発覚するケースがあります。
このリスクを回避するには、会計士や税理士による財務調査を徹底的に行い、買収契約では発覚した負債について元経営者が責任を負う条項を設けることが重要です。
事業運営の難易度
経営者が交代することで、事業の継続性が大きな課題となる可能性があります。たとえば、飲食店で「前のオーナーだから通っていた」という常連客が離れてしまうこともあるでしょう。
また、従業員の不安や取引先との信頼関係の崩壊も懸念されます。これらの問題を防ぐには、従業員や取引先とのコミュニケーションを大切にし、一定期間は前経営者に顧問として関わってもらうことが有効です。
法務リスクの存在
買収後に過去の契約や事業活動における法的問題が表面化することがあります。
従業員による残業代未払いの訴訟や、環境規制違反の発覚など、予期せぬトラブルに直面する可能性があるのです。
このリスクに備えるため、弁護士による法務調査を実施し、買収契約には潜在的な法的リスクへの対応条項を含めることが大切です。
企業文化の違い
買収した企業の文化と新経営者の考え方に大きな違いがあると、組織運営が難しくなります。
たとえば、堅実経営を重視してきた企業で急激な成長戦略を推進すると、従業員の混乱や反発を招く恐れがあります。
このような事態を避けるには、買収前に企業文化をていねいに把握し、方針転換は段階的に進めることが重要です。
後継者のいない会社の選定ポイント
会社選びには4つの重要なポイントがあります。順を追って、それぞれの内容を解説します。
- 企業価値はどうやって決まるのかを知ること
- 自ら引き継げる業務内容を選ぶ
- 予算の問題
- 経営状況を立て直せるかどうか?
企業価値はどうやって決まるのかを知ること
企業価値の評価方法を理解することは、適正価格での買収に不可欠です。主な評価方法には以下の3つがあります。
- マーケット・アプローチ:類似企業の取引事例を参考に算出
- インカム・アプローチ:将来のキャッシュフローから現在価値を計算
- コスト・アプローチ:保有資産を基に算出
ただし、中小企業では売り手の感情的価値も考慮する必要があるため、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
自ら引き継げる業務内容を選ぶ
買収後の経営を成功させるには、自分のスキルや経験に合った企業を選ぶことが重要です。まず、自身の得意分野を整理し、業界特有の要件(資格や規制)を確認します。
ビジネスモデルを詳しく理解し、自分が担える役割かを見極めましょう。スキル不足がある場合は、専門知識を持つ従業員の維持や専門家の雇用も検討が必要です。
予算の問題
予算計画では、買収価格だけでなく運転資金や追加投資まで考慮することが大切です。小規模企業の場合、買収価格は「年商の0.5~1倍」が目安となります。
また、運転資金や設備投資、リブランド費用なども見込んでおくとよいでしょう。資金調達には自己資金、融資、税制優遇など複数の選択肢があり、専門家に相談することをおすすめします。
経営状況を立て直せるかどうか?
企業が抱える問題を見極め、改善の可能性を慎重に評価することが重要です。財務状況、市場環境、組織体制を詳しく分析し、主要な課題を特定します。
たとえば、売上減少の原因が新製品不足なのか、営業力不足なのかを見極め、具体的な改善策を立案します。必要に応じて経営コンサルタントなど、外部の専門家の支援も検討しましょう。
まとめ
個人による会社買収は、ゼロからの起業に比べてリスクを抑えながら事業をスタートできる選択肢です。ただし、成功のためには入念な準備と慎重な判断が必要です。
とくに重要なのは以下の3点です。
- 目的を明確にし、自分の経験やスキルに合った企業を選ぶこと
- 財務・法務面のリスクを専門家と共に精査すること
- 買収後の運営計画を具体的に立てること
検討を始める際は、この記事で解説した手順を参考に、一つずつ確実に進めていくことをおすすめします。