事業売却の相場はどれくらい?事業価値の計算方法と高くする方法を解説

事業売却を検討しているものの、適切な売却価格や相場観がつかめず、悩まれている経営者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、事業売却の基本的な考え方から、相場の算出方法、そして価値を高める具体的な施策まで、実践的な内容をわかりやすく解説します。
業界動向や評価手法を理解し、適切な準備を行うことで、相場以上の価格での売却も可能です。ぜひ、経営判断の参考にしてください。
そもそも事業売却とは
事業売却は、企業が持つ特定の事業部門や資産を第三者に譲渡する経営判断です。この手法が注目されているのは、経営資源の最適化や財務改善を効果的に実現できるためです。
たとえば、企業が主力事業に経営資源を集中させたいとき、不採算部門を切り離して売却することで、経営の立て直しを図れます。また、後継者不在に悩む経営者が、従業員の雇用を守りながら円滑な事業承継を実現する手段としても活用されています。
事業売却では、ブランドや顧客リスト、設備などの経営資源を、必要な範囲で選択して譲渡できる点が特徴です。このため、譲渡後も企業は存続し、残った事業を継続することが可能となります。
近年では、企業の「選択と集中」という経営戦略のもと、さまざまな規模・業種で事業売却が行われ、M&A市場の活性化にもつながっています。事業売却の実施にあたっては、売却対象の選定から買い手との交渉、そして実際の引き渡しまで、計画的な準備と実行が重要です。
事業売却の2024年相場動向
2024年の事業売却市場では、業界特性や事業規模によって相場に大きな差が生まれています。この背景には、各業界の成長性や技術革新、そして市場環境の変化が大きく影響しているためです。
たとえば、IT業界ではシステム開発やSES事業の売却が活発化し、エンジニアの技術力や顧客基盤を重視した評価が一般的となっています。一方、製造業では設備や技術力、取引先との関係性が重要な評価ポイントとなり、同業大手による買収や異業種からの参入が目立っています。
売却価格の算定には、時価純資産や将来の収益性、類似企業との比較など、さまざまな要素が考慮されるのです。とくに中小企業のM&Aでは、「時価純資産+営業利益の2〜5年分」という計算式が相場の目安として活用されています。
このように、2024年の事業売却では、業界動向や企業の特性に応じた柔軟な価格設定が重要となっています。
事業売却の相場を算出する方法
事業売却の価格算定には、資産価値や将来収益、類似企業との比較など、さまざまな方法があります。以下では、代表的な6つの算定方法について、それぞれの特徴や活用シーンを詳しく解説します。
- 純資産法(時価純資産法)
- 収益還元法
- 類似企業比較法(マルチプル法)
- 簡易算定方式(純資産+営業利益年数分)
- 清算価値法
- 従業員の雇用価値を加味する方法
純資産法(時価純資産法)
純資産法は、企業が保有する資産から負債を差し引いた純資産を時価で評価する手法です。この方法の特徴は、貸借対照表に計上された資産と負債を実際の市場価値で再評価する点にあります。
たとえば、不動産や設備などの固定資産を現在の市場価格で評価し直すことで、より実態に即した価値算定が可能となります。とくに製造業や不動産業など、固定資産の比率が高い業種での活用に適した手法です。
ただし、将来の成長性やブランド価値といった無形の価値は反映されにくいため、収益性の高い企業の評価では、他の手法と組み合わせて使用することが一般的です。
収益還元法
収益還元法は、事業が将来生み出す利益やキャッシュフローに基づいて価値を算定する方法です。代表的な手法として、将来の収益予測を現在価値に換算するDCF法があり、成長企業の評価に適しています。
たとえば、年間1,000万円の営業利益が見込める事業で、業界標準の収益還元倍率が5倍の場合、事業価値は5,000万円と算出されます。この手法は将来性を重視した評価が可能ですが、収益予測の精度や割引率の設定により結果が大きく変動する点に注意が必要です。
類似企業比較法(マルチプル法)
類似企業比較法は、同業種の企業の売却事例や市場での評価倍率を参考に価値を算定する手法です。一般的には、EBITDA倍率や売上高倍率といった指標を活用し、業界の標準的な倍率を自社の財務数値に掛け合わせて価値を導き出します。
たとえば、業界平均のEBITDA倍率が8倍で、自社のEBITDAが2,000万円の場合、事業価値は1億6,000万円と計算されます。この方法は市場動向を反映した客観的な評価が可能ですが、適切な比較対象の選定が重要となる点には注意しましょう。
簡易算定方式(純資産+営業利益年数分)
簡易算定方式は、純資産に一定年数分の営業利益を加算する、シンプルで実用的な算定方法です。中小企業のM&Aでよく用いられ、一般的に純資産に営業利益の3〜5年分を上乗せして算出します。
たとえば、純資産が1,000万円で年間営業利益が500万円の場合、3年分を加算すると2,500万円が売却価格となります。この方法は計算が容易で理解しやすい反面、業界特性や将来性が十分に反映されない点に留意が必要です。
清算価値法
清算価値法は、事業を解散した場合に得られる資産の処分価値を基準に評価する手法です。保有資産を換金した際の価値から、負債の返済や清算に伴う費用を差し引いて算出します。
たとえば、不動産や在庫などの資産を市場価格で売却し、借入金や解約費用を差し引いた金額が清算価値となるのです。清算価値法は事業継続が困難な場合の最低ラインとして捉えられ、再建可能性の判断材料としても活用されています。
従業員の雇用価値を加味する方法
従業員の雇用価値を加味する方法は、人材の専門性や技術力、組織としての強みを価値評価に反映させる手法です。とくにIT企業や技術系ベンチャーでは、従業員の持つスキルやノウハウが重要な経営資源となります。
たとえば、特殊な技術を持つエンジニアの存在や、効率的な開発体制の構築などが、プラスの評価要素として考慮されます。ただし、人材の価値を定量化することは難しく、評価基準の設定や離職リスクの考慮が重要となる手法です。
事業の売却価値を相場より高くする方法
事業売却の価値を高めるには、財務や収益性の改善から、成長戦略、組織体制の整備まで、包括的な取り組みが重要です。以下では、具体的な価値向上の方法を解説します。
- 財務状況を健全な状態にする
- 収益性を向上させる
- 成長戦略を明確にする
- 組織体制を整備する
- ブランド価値を向上させる
- 知的財産を活用する
- リスク管理を徹底する
- 買い手へのアピール方法を工夫する
財務状況を健全な状態にする
財務状況の健全化は、買い手に安心感を与える重要な要素です。まずは、高金利の負債を整理し、不要な資産の売却を進めることで、バランスシートの改善を図ります。
また、毎月の収支を見直し、無駄な経費を削減することでキャッシュフローを強化します。健全な財務基盤は、将来的なリスクの低減にもつながり、買い手からより高い評価を得られる可能性が高まるのです。
収益性を向上させる
収益性の向上は、事業価値を直接的に高める重要な要素です。具体的には、サプライチェーンの見直しによる原価低減や、業務プロセスの自動化によるコスト削減を進めます。
さらに、新市場の開拓やクロスセルの活用で売上を拡大し、独自の付加価値提供で差別化を図ります。安定した高収益は、買い手にとって魅力的な投資対象となり、評価額の上昇につながるのです。
成長戦略を明確にする
明確な成長戦略は、買い手の投資意欲を高める重要な要素です。3〜5年の具体的な売上・利益計画を策定し、新商品開発や市場拡大の計画を示します。
また、業界の成長性や自社の競争優位性を客観的なデータで裏付けることで、将来性をアピールします。実現可能な成長戦略は、買い手の期待値を高め、より有利な条件での売却につながるでしょう。
組織体制を整備する
安定した組織体制は、事業の継続性を担保する重要な要素です。業務プロセスを標準化し、誰でも円滑に業務を遂行できる仕組みを構築します。
また、経験豊富な人材の配置や育成プログラムを導入することで、組織力を強化できるでしょう。整備された組織体制は、買い手にとって即戦力として評価され、スムーズな事業継承を可能にします。
ブランド価値を向上させる
強いブランド力は、事業の付加価値を高める重要な資産です。SNSやコンテンツマーケティングを活用して認知度を向上させ、顧客満足度の向上でリピート率を高めます。
さらに、地域貢献活動を通じて信頼性を構築すると効果的です。確立されたブランドは、買い手企業の将来的な成長にも寄与し、より高い評価を得られます。
知的財産を活用する
知的財産は、事業の競争優位性を示す重要な要素です。製品やサービスの独自性を特許や商標で保護し、技術やノウハウを体系的にドキュメント化します。
これにより、買い手企業への円滑な技術移転が可能となり、事業の継続性が担保されます。保護された知的財産は、市場での優位性を確保し、高い評価につながるのです。
リスク管理を徹底する
徹底したリスク管理は、買い手の不安を払拭する重要なポイントです。契約書や取引条件を精査して法務リスクを最小化し、税務面の課題を事前に解決します。
また、災害や危機への対応計画を整備し、事業継続性を確保しましょう。リスクが適切に管理された事業は、買い手からより高い評価を得られます。
買い手へのアピール方法を工夫する
効果的なアピールは、事業価値を最大化する重要な要素です。魅力的な販売資料を作成し、財務データや業務実績を透明性高く提示します。
また、シナジー効果が期待できる買い手候補を戦略的に選定し、積極的なアプローチを行います。適切なプレゼンテーションは、買い手の興味を引き出し、よりよい条件での売却を可能にするのです。
まとめ
事業売却の価値は、純資産法や収益還元法、類似企業比較法など、さまざまな方法で算出されます。ただし、高値での売却を実現するには、財務体質の改善や収益性の向上、成長戦略の明確化など、計画的な準備が重要です。
また、2024年以降の相場は、業界特性や企業の状況によって大きく異なる展開が予想されます。売却を成功に導くためには、早めの準備と専門家への相談を心がけましょう。