同族会社の株式譲渡とは?手続き・必要書類・税金などについて解説
同族会社の株式譲渡を検討されている方の多くは、「手続きが複雑で何から始めればよいかわからない」「税金の計算方法がわからない」「法的リスクが心配」といった悩みを抱えているのではないでしょうか。
しかし、適切な手順を踏み、必要な対策を講じることで、これらの問題は解決できます。
本記事では、同族会社の株式譲渡に関する基礎知識から具体的な手続き、税務上の注意点まで、実務に即した情報を解説します。
この記事を読むことで、株式譲渡の具体的な進め方や必要な書類、税金の計算方法を理解でき、スムーズな手続きの実現が可能になります。
同族会社と株式譲渡とは
同族会社と株式譲渡は、事業承継や会社の所有権移転に関わる重要な概念です。それぞれの定義と特徴を詳しく解説します。
同族会社とは
同族会社は、少数の株主とその親族が支配する会社形態です。
法人税法では、株主3人とその親族などの特殊関係者で議決権の過半数を所有する会社と定められています。
たとえば、創業者とその家族が会社の大部分の株式を保有し、経営の意思決定を行うような会社が該当します。
同族会社の、経営判断が迅速で一貫性のある方針を打ち出しやすい点はメリットです。
一方で、留保金課税や行為計算の否認など、税務上の特別な規定が適用される点に注意が必要です。また、特殊関係者には配偶者や使用人なども含まれ、これらの関係者との取引には透明性が求められます。
株式譲渡とは
株式譲渡は、株主が保有する株式を他者に移転する取引のことです。
この取引により、会社の所有権や経営権が変動する可能性があるため、特に同族会社では重要な意味を持ちます。
具体的な譲渡方法には、有償での売却や無償での贈与があり、譲渡先は個人でも法人でも可能です。
ただし、非上場会社の場合、定款で株式譲渡に制限を設けていることが一般的です。
株式譲渡を行うことで、会社の支配構造や経営方針が大きく変わる可能性があるため、事前に十分な検討と適切な手続きが必要になります。とくに同族会社では、税務や法務の両面からの慎重な対応が求められます。
同族会社の株式譲渡の手続き
株式譲渡を適切に行うためには、4つの重要なステップを順番に進める必要があります。それぞれの手続きを詳しく解説していきます。
- 株式譲渡承認請求の提出
- 取締役会または株主総会の開催
- 株式譲渡契約の締結
- 株主名簿の書換え
1.株式譲渡承認請求の提出
まず、株式を譲渡したい株主は、会社に対して承認請求を行う必要があります。これは、多くの同族会社で定款に株式譲渡制限が設けられているためです。
具体的には、譲渡を希望する株主が「株式譲渡承認請求書」を会社に提出します。この請求書には、譲渡する株式の種類、株数、譲渡予定先の情報を明確に記載します。
手続きを確実に進めるため、事前に定款の内容を確認し、必要な情報を漏れなく記載することが重要です。
2.取締役会または株主総会の開催
承認請求を受けた会社は、取締役会または株主総会を開催して譲渡の可否を決定します。取締役会が設置されていない会社では、株主総会での審議が必要です。
この会議では、譲渡先の適格性や譲渡条件の妥当性を検討し、承認するかどうかを決めていきます。会社は、この決定を速やかに譲渡希望者に通知する必要があります。
決議の内容は議事録に記録し、承認された場合は次のステップに進めます。
3.株式譲渡契約の締結
承認後、譲渡人と譲受人の間で株式譲渡契約を結びます。契約書には、譲渡する株式の詳細、譲渡価格、支払方法、譲渡日などの重要事項を明記します。
この契約は法的な拘束力を持つため、両者の権利と義務を明確にしなければなりません。内容について不明な点がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。
契約締結後は、定められた期日までに譲渡代金の支払いを完了させ、株券の引き渡しを行います。
4.株主名簿の書換え
最後に、株主名簿の書換え手続きを行います。これは、譲渡人と譲受人が共同で会社に対して名義書換えを請求する重要な手続きです。
この手続きが完了するまで、譲受人は正式な株主としての権利を行使できません。そのため、速やかに書換えを行うことが大切です。
書換えが完了すると、譲受人は配当金の受け取りや議決権の行使など、株主としての権利を正式に得られます。
同族会社の株式譲渡に必要な書類
同族会社の株式譲渡を行うためには、以下の書類が必要です。それぞれ重要な役割を持つため、慎重に作成する必要があります。
株式譲渡承認請求書
- 会社に対して株式譲渡の承認を求める書類
- 記載事項:
- 譲渡する株式の種類と株数
- 譲渡先(譲受人)の基本情報
- 譲渡を希望する理由
株式譲渡契約書
- 譲渡人と譲受人の間で交わす正式な契約書
- 記載事項:
- 譲渡株式の詳細(種類・数)
- 譲渡価格と支払方法
- 譲渡日と株券の引渡し方法
- 両者の権利と義務
株式名義書換請求書
- 株主名簿の更新を会社に求める書類
- 記載事項:
- 譲渡人と譲受人の基本情報
- 譲渡株式の内容
- 名義書換えの希望日
その他の必要書類
- 株主名簿(会社保管)
- 株券(株券発行会社の場合)
- 取締役会議事録または株主総会議事録
また、重要なポイントとして以下のことがあげられます。
- すべての書類は正確に記入し、必要事項を漏れなく記載
- 法務・税務の専門家に相談することを推奨
- 同族会社特有の規定に注意が必要
- 書類の控えは適切に保管
これらの書類を適切に準備し、手続きを進めることで、スムーズな株式譲渡が可能になります。
とくに同族会社の場合は、後々のトラブルを防ぐため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることをおすすめします。
同族会社の株式譲渡に関する税金
同族会社の株式譲渡では、取引の主体によって適用される税金が異なります。譲渡者と譲受者の組み合わせごとに解説します。
個人から個人への株式譲渡の場合にかかる税金
個人間の株式譲渡では、譲渡益に対して所得税・住民税が課税されます。これは株式の売却による利益を、譲渡所得として扱うためです。
たとえば、1,000万円で取得した株式を1,500万円で売却した場合、譲渡益500万円に対して20%(所得税15%+住民税5%)の税金が課されます。
ただし、時価より著しく低い価格での譲渡は贈与とみなされ、贈与税が課税される可能性があるため注意が必要です。
個人から法人への株式譲渡の場合にかかる税金
個人が法人に株式を譲渡する場合も、個人側に譲渡益課税が発生します。これは株式の売却者が個人であるため、所得税法の規定が適用されるためです。
時価1,000万円の株式を500万円未満で譲渡した場合、時価での譲渡とみなされ、差額に対して課税されることがあります。
とくに同族会社への譲渡は、税務当局のチェックが厳しいため、適正価格での取引が重要です。
法人から個人への株式譲渡の場合にかかる税金
法人が個人に株式を譲渡する場合、法人側に法人税が課税されます。これは株式の譲渡益が法人の益金として計上されるためです。
法人が簿価500万円の株式を1,000万円で譲渡した場合、500万円の譲渡益に対して法人税が課されます。時価より低額での譲渡は、個人への利益供与とみなされるリスクがあります。
法人から法人への株式譲渡の場合にかかる税金
法人間の株式譲渡では、譲渡法人に法人税が課税されます。これは株式の譲渡益が法人の所得を構成するためです。
時価1,000万円の株式を著しく低い価格で譲渡した場合、差額は寄付金とみなされ、損金算入が制限される可能性があります。同族会社間の取引はとくに注意が必要で、適正価格での取引と専門家への相談が推奨されます。
同族会社の株式譲渡における注意点と対策
株式譲渡を円滑に進めるには、税務・法務・事業承継の3つの観点からの注意点を理解し、適切な対策を講じる必要があります。
税務上の注意点と対策
同族会社の株式譲渡では、適正な価格での取引と適切な税務申告が不可欠です。不適切な価格での取引は、「みなし贈与」や「寄付金」として扱われ、追加の税負担が発生する可能性があります。
時価1,000万円の株式を500万円で譲渡した場合、差額の500万円に対して贈与税が課される可能性があります。対策として、専門家による株式評価の実施と、適正価格での取引を徹底することが重要です。
法務上の注意点と対策
株式譲渡には、定款の確認から株主名簿の書換えまで、複数の法的手続きが必要です。手続きの不備は、株式譲渡の無効や株主権の行使不能などの重大な問題を引き起こす可能性があります。
具体的には、定款に譲渡制限がある場合、取締役会の承認なしでの譲渡は無効となることがあります。対策として、弁護士に相談し、必要な手続きを漏れなく実施することをおすすめします。
事業承継における注意点と対策
事業承継を見据えた株式譲渡では、税負担の軽減と円滑な経営権の移転が重要です。高額な相続税や贈与税は、事業継続の障害となる可能性があります。また、経営権の分散は、将来の意思決定に支障をきたすことがあります。
対策として、後継者に株式を集中させることで、スムーズな意思決定が可能になるでしょう。さらに、税理士やM&Aアドバイザーと相談し、長期的な視点で計画を立てることでリスクを最低限に抑えられます。
まとめ
同族会社の株式譲渡を成功させるためのポイントは、以下の3つです。
- 適切な手続きの実施
- 株式譲渡承認請求から株主名簿の書換えまで、手順を確実に踏むこと
- 必要書類を漏れなく準備すること
- 税務リスクへの対応
- 適正価格での取引を行うこと
- 譲渡パターンに応じた適切な税務申告を行うこと
- 専門家への相談
- 税理士や弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けること
- とくに事業承継を見据えた場合は、長期的な計画を立てること
株式譲渡は複雑な手続きですが、これらのポイントを押さえることで、スムーズな実施が可能です。不明な点がある場合は、必ず専門家に相談することをおすすめします。